なぜ「24インチの単一展開」なのか
2021年にM1モデルが登場するまで、iMacは長らく、21.5インチと27インチの二本立てで展開してきた。しかしAppleシリコン以降のiMacは、中庸をゆく24インチの単一展開となっている。
Appleとしては、「何をするにもちょうどいい大きさ」である24インチに需要を集中させ、ラインナップを簡素化したかったのだろう。しかし
実際には、大画面を手放したくないユーザーが多く、買い替えが進んでいないものと思われる。
2年ぶりのモデルチェンジを果たしたiMacの全貌。旧型の27インチiMacからの買い替えを勧めているが……
とりわけデザインや映像制作の現場では、27インチのiMacが愛用されてきた。新型のiMacに大型ディスプレイを外部接続することも可能だが、独特のデザインを持つiMacは、他のディスプレイと組み合わせにくい。
そういうわけで、iMacの需要がより安価なMac miniや、より高性能なMac Studioに流出している可能性は捨てきれない。
やはりiMacの画面サイズ統一は失敗だったのかもしれない。
余談だが、上蓋を閉じたMacBookを外部ディスプレイと接続し、デスクトップ機のように利用することも可能である(キーボード・マウスは別途必要)。「主に自宅やオフィスでMacを使っているが、たまに持ち出す必要がある」という場合、この方法が一番スマートだろう。
Appleの新製品が発表されるたびに気にかかるのが、同社と生成AI(生成系AI、ジェネラティブAIとも)の関係である。昨年以来、対話型AIの「ChatGPT」や画像生成AIの「Stable Diffusion」が盛んに話題に上っているが、
Appleが生成AIに言及することは少ない。
IT界を代表する善人であるティム・クックCEO。しかし奇人や変人ではない
今回のプレゼンにしても、新型チップのお披露目にもかかわらず、『徹子の部屋』と同じ30分間でPRを終えてしまった。ハードウェア開発の最先端を競っている企業としては、実に不自然である。この背景に、
ティム・クックCEOら経営陣のAI観があることは想像に難くない。
M1以降のチップに搭載されている「Apple Neural Engine」や、潤沢なメインメモリをGPUメモリとしても利用できる「ユニファイドメモリ」といったMac特有の仕組みは本来、生成AIの実行に適したものだ。
さらに現在では、ソフト面での生成AIの実行環境も整いつつある。したがって、
写真やイラストを自動生成し、印象的なプレゼンを行うことも十分可能なはずだが、Appleはそれを頑なに避け続けている。
「AI」という言葉は、M3 MAXの概要図を示す場面でわずかに聞かれるのみだった
こういったAIに対する消極性は、Macの上客であるクリエイター層への配慮として極めて妥当である。しかし、
Appleを創業したスティーブ・ジョブズならば、果たしてどうしただろうか。AIを活用するにせよ、あるいは生成AIの無軌道な利用を糾弾するにせよ、もっと刺激的なやり方を選んでいたのではないか。
カリスマ発明家を亡くしてから12年、彼の姿を思い出さずにはいられない秋の日であった。
<TEXT/ジャンヤー宇都>
「平成時代の子ども文化」全般を愛するフリーライター。単著に『多摩あるある』と『オタサーの姫 〜オタク過密時代の植生学〜』(ともにTOブックス)ほか雑誌・MOOKなどに執筆