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NHK「大奥」、視聴率低迷も“オトナが観るべき”秋ドラマの最高傑作といえる理由

視聴率は連続ドラマで最下位クラスだが

(C)NHK

 視聴率は低い。個人全体視聴率は2%前後。連続ドラマで最下位クラスだ。若い人がほとんど観ないからである。それも不思議ではない。このドラマの魅力は一定の人生経験を積まないと理解するのが難しいだろう。  若いうちはヒロイン、ヒーローに栄光を求めがち。罪もないのに不平を言わずに死んでいった青沼に共鳴するのは難しいはず。また、近年は時代劇が激減したため、若い人が観ることに慣れていないのも理由の1つに違いない。大人向けのドラマだ。  平賀源内も赤面撲滅に大きく貢献しながら、栄光はなかった。「ありがとうって言われるのが一番好き」という無欲の人物だったが、権力欲の塊のような治済の差し金で暴漢に襲われ、梅毒をうつされてしまったからだ。  病が重症化し、死の淵に立たされた源内は、見舞いに来た青沼の弟子の1人・黒木良順(玉置玲央)に人痘接種の現状を尋ねる。既に人痘接種は禁じられ、青沼も殺されていたものの、それを知らない源内はこうつぶやく。「人痘が大成功したんだ……」。黒木はこれを肯定した。ウソである。  源内は「青沼さんは元気?」とも問うた。これにも黒木は「お元気ですよ」とウソをついた。誰もが正しいウソだと思うに違いないが、若い人はウソが不当なものだと教えられているから、これも理解は難しかったかも知れない。  黒木も美しい人間だった。青沼と源内の死後、2人の遺志を継ぐため、人痘接種に使う赤面疱瘡の種を探す旅に出た。幕府の許しはなかったが、2人の死を無駄にしないためだ。妻子を江戸に置き、5年も全国を歩き、接種に向いたクマの赤面を探し当てる。現代劇から消えた報恩である。

最高権力者・治済の排除のために共闘

 11代将軍・徳川家斉(中村蒼)の正室・御台(蓮佛美沙子)と側室・お志賀の方(佐津川愛美)の関係も美しかった。2人は当初、お互いに自分の子供を殺されたと誤解し、憎み合う。しかし、真犯人が治済と知ると、水面下で協力し合い、仇討ちの機会を待つ。治済を排除することで幕府を正常化したいという願いもあった。  2人が我が子の仇を取る日はやって来た。お志賀の方が治済に毒を盛った。治済は倒れ、再起不能になる。だが、お志賀の方も死んでしまった。治済はお志賀の方が毒味をしていない物は口にしないからだ。お志賀の方は命を賭して御台と誓い合った仇討ちを実行した。御台は崩れ落ちたお志賀の方にすがりながら号泣した。  この場面も現代劇で撮るのは不可能。無理に撮ることは可能だろうが、説得力が出ない。時代劇でしか表せないことは数え切れない。
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正義を貫くために身を賭す――時代劇だからこその設定
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放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員

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