エンタメ

NHK「大奥」、視聴率低迷も“オトナが観るべき”秋ドラマの最高傑作といえる理由

正義を貫くために身を賭す――時代劇だからこその設定

 大奥の最後の総取締・瀧山(古川雄大)も美しい。13代将軍・徳川家定(愛希れいか)をその父親である12代将軍・徳川家慶(高嶋政伸)の性的虐待から守るため、老中・阿部正弘(瀧内公美)によって大奥に送り込まれた。  瀧山は元花街の男娼。正弘に度胸と腕っ節を買われ、大奥に上がった。瀧山は自分の素性を問わずに登用してくれた正弘の心意気に打たれ、体を張って家定を守ろうとする。  家慶が家定に手を出そうとすると、瀧山が諫止した。これに激怒した家慶から斬られそうになると、自分も刀に手を掛けた。「殿中で抜かれるのでございますか?」(瀧山)。身分をわきまえない非礼だが、自分が斬られてしまったら、家定を守れないからである。家慶を斬ったら、その後は切腹するしかないから、これも捨て身だった。  ミーイズムが台頭する現代劇では、身を賭して誰かを守るという設定をつくるのが困難。時代劇だから、そんな場面をいくつもつくれたこのドラマが新鮮で面白いはずだ。

演者も原作、脚本も一級品

 俳優陣はうまい人しか出ていないから、シラケることがない。演出も時代劇の王道を歩んでいる。たとえば、観ている方はお気づきだろうが、夜の屋内の場面では灯りがろうそくで、薄暗い。夜中の屋内でもなぜか煌々と明るい時代劇が多い中、原則を守っている。カメラワークと衣装、美術も文句なしである。  時代考証も丁寧。意次の時代だった天明3年(1783年)の浅間山噴火や意次と定信の不仲などは史実の通りだ。  原作がよしながふみの名作漫画で、脚本は名手の森下佳子氏が書いているから、物語性は完璧と言っていい。  今後は幕末が描かれる。これからも美しい人間、醜い人間が登場するだろう。<文/高堀冬彦>
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員
1
2
3
おすすめ記事
ハッシュタグ