更新日:2023年12月06日 14:44
エンタメ

「人間よりもロボットのほうが“人の心”を描きやすい」『空気人形』『自虐の詩』のマンガ家が語る画業40周年

「空気人形」の是枝監督にした“お願い”

業田良家

原画展で展示されている描き下ろし絵言葉「空気人形」

――『空気人形』が収録されている『ゴーダ哲学堂』は、人間だけではなく、ラブドールやロボットが主人公の「ゴーダ哲学」の詰まった短編作品集です。現在「ビッグコミック」で連載中の『機械仕掛けの愛 ママジン』の主人公もロボットですが、先生はロボットがお好きなんですか? 業田:ロボットの好き嫌いというよりも、「短編作品だから」というのが大きな理由でしょう。ストーリーマンガであれば少しずつ積み重ねていって、人間の心の深い部分を描くことができますが、短編作品だと登場人物たちを端的に表わす必要があります。そして、端的に表わすには「人間とは違う存在でも心を持っている」という設定がとてもわかりやすい。だから、僕は人間よりもロボットや人形のほうが「人の心」を描きやすいと思っているんですよ。 ――そこから、恋をする空気人形も生まれたんですね。今の若者たちの間でもペ・ドゥナ主演の映画は名作として見続けられています。 業田:あっ、そうなんですか? 全然知らなかったです(笑)。当時、『誰も知らない』で俳優の柳楽優弥氏がカンヌ国際映画祭で男優賞を受賞していたので、是枝監督の名前は知っていましたが、作品は見たことがありませんでした。そこから、企画書を読んだうえで、過去の作品を見たことで、彼の『空気人形』を「観てみたい」と思ったんです。だって、難しい設定ですからね。空気人形を実際の人間がどんなふうに表現するのか、想像もつかなかったです。 ――できあがった映画を見たときの感想はどうでしたか? 業田:マンガの世界観をそのまま上手に映像化してくれましたね。非常に画面が美しかったのを覚えています。ただ、ラストは少し「残酷」だと感じました。だって、僕のマンガと違って、空気人形が恋した男の子は、その空気人形に殺されてしまうわけですからね。できれば「血」を見たくなかった。是枝監督にも「血を見たくないので脚本を変えてほしい」とは伝えました。でも、「これで行かせてくれ」と、返されたんです。僕はその映像が頭に浮かんでいるわけではなかったので、だったら「監督に賭けてみよう」と思いました。

『自虐の詩』の担当秘話

業田良家

「自虐の詩」ではちゃぶ台返しが話題に

――業田先生の代表作といえば、もうひとつ『自虐の詩』 があります。働かずに怒るとちゃぶ台をひっくり返すイサオと、そんな彼を健気に支える幸江という共依存カップルを中心に描いた4コマギャグマンガです。中盤から幸江の幼少期や高校時代のエピソードが増えていき、最後は中学時代の悪友と再会するという泣かせる展開になりました。 業田:『ヤングマガジン』で初連載の『ゴーダ君』を描き始めて1年後ぐらいに『週刊宝石』の編集部から電話があり、4コマの連載を打診され喜んでお話を受けました。最初は普通の4コマ漫画を描いていたのですが、さまざまなキャラクターを登場させていく中に、イサオと幸江の夫婦も出てきました。  そしてイサオがちゃぶ台をひっくり返すシーンが編集部にウケたんです。当時、深夜番組でちゃぶ台をひっくり返すコーナーができるくらい話題になって、これほど盛り上がるならということで、イサオと幸江の日常のギャグを描き始めました。  もともとは、普通にギャグマンガを描いていたのですが、パターンが出尽くしたといいますか……。ずっと、ちゃぶ台をひっくり返すわけにはいかないですからね(笑)。ネタが尽きはじめたので、子どもの頃の話を描き始めたんです。
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当時の反響は「何もなかった(笑)」
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編集者/ライター。1993年、福岡県生まれ。出版社に勤務する傍ら、「ARBAN」や「ギター・マガジン」(リットーミュージック)などで執筆活動中。著書に『奨学金、借りたら人生こうなった』(扶桑社新書)がある
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【イベント情報】
原画展「マンガ仕掛けの愛」は12月17日まで東京・ヴァニラ画廊で開催
営業時間:平日12時~19時、土日祝12時~17時
〒104-0061 東京都中央区銀座八丁目10番7号 東成ビル地下2F
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