当時の反響は「何もなかった(笑)」
「自虐の詩」は幸江の内面に踏み込む内容に
――ギャグテイストで幼い頃に家を出てしまった「母の顔が分からない」ことを説明する回もありましたが、徐々に幸江は「万引き常習犯だった」などシリアスな過去に比重が置かれるようになりました。
業田:幸江を描いているうちに「今が不幸なんだから、きっと幼少期も不幸だったんだろう」と思うようになったんです。そしたら、「僕が子どもの頃はどうだったかな?」と、自分の過去を思い出しながら描くことになり、自分の内面を見つめるような形になっていきました。
この作品は女性が主人公ですが、どこか自分自身を投影するようになり、自分が無意識の内に抱いていた劣等感や負の感情に次第に気がつきはじめました。それはある意味ショックでもありました。
――リアルタイムで「週刊宝石」を読んでいた読者は幸江たちが中心の物語ではなく、いろんなキャラクターが出てくるオムニバス形式のギャグマンガだと思っていたはずなので、まさか後年になって「泣ける4コマ」と評されるとは予想もしていなかったでしょう……。当時の反響はどうでしたか?
業田:何もなかったですね(笑)。ファンレターが1通届いたぐらいです。でも、その頃は「4コマブーム」で、同期の相原コージ氏をはじめ、いがらしみきお氏やいしいひさいち氏などの名手がたくさんいました。そんな時代だったので、毎週僕の2〜3ページの4コマを担当編集者が「くすっ」と笑ってくれるだけで良かったんです。
展示品のちゃぶ台を前に、業田氏
――2010年代に入ってからも『機械仕掛けの愛』が第17回手塚治虫文化賞短編賞を受賞し、『男の操』はドラマ化されました。
業田:政治・社会的なこと、そして哲学に興味あることに変わりはありません。そうした本を読んだり、マスメディアの情報を常に取り入れようとしているため、自然と「社会全体を見よう」という気持ちが強くなるんですかね。手塚治虫先生の影響かもしれないけれど、社会を批判する視点を持つことが必要だと考えています。
――かつてはフォークソングやビートルズから影響を受けていたと思いますが、今はどういったコンテンツから刺激を受けるのでしょうか?
業田:毎週、いろんな雑誌が献本されますが、それらを読んでも「これはすごい!」と思う作品にはしばらく出合えていないですね。むしろ、最近はネットの情報を取り入れることが増えてきました。特に今はYouTubeで素人の人でも面白い動画を作る人も大勢いますから。最近では、素人ではないですが、岡田斗司夫さんのYouTubeはよく見ています。そういうのを見ていると刺激を受けますよね。
編集者/ライター。1993年、福岡県生まれ。出版社に勤務する傍ら、「ARBAN」や「ギター・マガジン」(リットーミュージック)などで執筆活動中。著書に『奨学金、借りたら人生こうなった』(扶桑社新書)がある
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原画展「
マンガ仕掛けの愛」は12月17日まで東京・ヴァニラ画廊で開催
営業時間:平日12時~19時、土日祝12時~17時
〒104-0061 東京都中央区銀座八丁目10番7号 東成ビル地下2F