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とあるおっさんが、トイレで体験した身の毛もよだつ怖い話。背筋が凍り、涙が止まらない

HUNTER×HUNTERでいうところの“絶”

怖い話 ウンコをしていて、さあ出ようかという時に誰かが入ってきた。その入ってきた誰かは小便器に向かっている。その場合、けっこうな確率でこちらは声を押し殺す。気配すら消す。そういう対応をとる。  職場という状況を考えると、その小便器に向かう男は高確率で同僚だ。そこにバコンと個室から出ていく、そうなると「あ、こいつウンコしてたんだ」と思われてしまうわけだ。それは避けたい。  それだけならまだしも、その同僚がトイレに入った瞬間に「めちゃくちゃ臭いな」と考えていた場合、「こいつか」と思われてしまう。それを避けるため、小便器の男が出るまで個室から出るわけにはいかないのだ。  さらには、出られなくなっているこの状態を小便器の男に悟られてはいけない。なんだか負けた気がするからだ。だから声を押し殺し、気配を消す。ぜったいに動きが止まる。 「HUNTER×HUNTERでいうところの“絶”よ」 「HUNTER×HUNTERでいうところの“絶”ですね」  HUNTER×HUNTERでいうところの“絶”なのかどうかは分からないけど、そう答えないと先に進まないのでそう答える。  この辺の感覚は小便器と大便ブースが分かれている男性ならではの感覚で、個室ブース=ウンコとなるところが原因だろう。女性側はあまりこういうことないんじゃないかな。 「たださあ、そいつが小便器のところでゴソゴソと何かをやっているわけよ。小便なんか1分もあれば終わるだろ、それなのに出て行かない」  たしかに、同じように大便ブースで声を押し殺すことあるけど、たまにおまえ小便器でなにやってんだってYouTubeでもみてんの、ってくらいに長いやつがいる。こちらはその間、ずっと“絶”を使わねばならず、それだけにかなり疲れてしまう。HUNTER×HUNTERでいうところオーラを使い切るというやつだ。

ひょんなことで大便ブースに閉じ込められてしまった

「それどころか、そいつがどこかに電話をかけ始めた気配がしたんだ」  その何者かがトイレから出て行かず、どこかに電話をかけ始めた。これはまあ、勘弁してくれよと思うけど何者かの気持ちもわからんでもない。人にあまり聞かれたくない電話をトイレでかけることはよくある。ただ、大便ブースが閉まっているので人がいるわけで、聞かれてしまう。本来はかけるべきではないけど、たぶん松岡さんの“絶”が完璧だったんだろう。気付かずにかけはじめたようだ。 「あ、もしもし、あ、はい、あ、はい」  電話の主の声を聴いて確信した。松岡さんは小便器でゴソゴソしている何者かが森山だと確信した。森山は松岡さんの同期で、けっこう嫌なやつらしい。どうやら松岡さんのことをライバル視しているよいうで、ちょろちょろと嫌がらせじみたことをしてくるみたいだ。 「はい、18時半からで、リオさんを90分で指名したいのですが……」  松岡さんは確信する。森山のヤツ、風俗店に予約の電話を入れてやがる。リオさんを指名しようとしている。なるほど、確かにそういう電話なら誰にも聴かれたくないはずだ。トイレからかけるのもわかる。 「けれども、俺に聴かれてしまったのが運のつきよ」  松岡さんはさらに声を押し殺した。憎き森山の弱みを握れると思ったからだ。 「はい、それでパンティ持ち帰りのオプションをつけたいんですが」  森山、めちゃくちゃ高いオプションをつけようとしている。風俗嬢の履いていたパンティを持ち帰ることができる小粋なサービスで、だいたい、なみいるオプションの中でいちばん高いやつだ。 「もう完全に弱味を握ったと思ったよ。こんどなにか言ってきやがったら“うるせーパンティ持ち帰り“って言ってやろうと思った」 「いいですね」
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どうやらクソ客だった森山さん
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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