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とあるおっさんが、トイレで体験した身の毛もよだつ怖い話。背筋が凍り、涙が止まらない

どうやらクソ客だった森山さん

 松岡さんは息を殺しながらもしめしめ、とほくそ笑んでいた。森山さんの風俗店への電話はまだまだ続いていた。 「はあ、18時30分は予約が入っている。じゃあ19時30分はダメ? あ、26時までぜんぶ埋まっていますか」  森山さんはリオちゃんの予約を断られていたらしい。 「じゃあ、マロンちゃんはいけますか? はあ、マロンちゃんも全部だめ? 本当ですか?」  リオちゃんがダメならマロンちゃん、でもそれでもダメ。そんな大人気な繁盛店なのかと思ったらそうではないらしい。 「女の子から苦情がたくさん来ている? 出禁?」  どうやら、ちょっとオイタが過ぎたようで、もう利用をお断りしたいと言われているようだ。これには松岡さんも大喜びだ。 「そこをなんとか。もう二度とやりませんので、本当に心を入れ替えました。本当にそこをなんとか。最後のチャンスを」  情けないほどに懇願する森山さん。あまりの情けなさを見せているので、完全に弱みを握ったと松岡さんの“絶”も解けかかってしまったらしい。 「ありがとうございます!」  必死の懇願が通じたようだ。まあ、いちばん高価なパンティ持ち帰りをオプションにする客だ。金の払いは良かったのかもしれない。最後のチャンスを与えてもらったのだろう、森山さんの声も弾んでいたらしい。

クソ客・森山の口から出た衝撃的な一言

「はい、気を付けます。ありがとうございます。じゃあマロンちゃんで、はい、90分でパンティ持ち帰りで」  そう言ったらしい。いちばん高いやつだ。 「本当に情けないやつだと思ったよ。職場のトイレから風俗店の予約をし、パンティ持ち帰りまでつけてやがる。おまけになにをやったのかしらねえけど、出禁寸前になって情けないほどに懇願している。俺がこんな情けない状態になったら死を選ぶね」  しかし、ここからが松岡さんにとって衝撃の展開だった。 「はい、予約名はいつものように松岡孝典でおねがいします」  松岡さんの名前だった。 「俺の名前を勝手に使っているどころか、フルネームだぜ。店の奴らは松岡孝典オイタがすぎるから出禁にしようぜ、とか松岡孝典パンティ持ち帰り大好きって思ってるんだぜ」  あまりのショックに、大便ブースの中で酸欠みたいになり口をパクパクすることしかできなかったらしい。  松岡さんに対する嫌がらせなのか、それともたんに本名を名乗りたくなくて、適当に名乗ったのか不明だけど、たぶん前者だろう。じゃなきゃフルネームで名乗る理由がない。 「おそろしいだろ。まさにエアポケットよ」 「エアポケットですねえ」  松岡さんは、やはりエアポケットの使い方を間違えていて、理解できない不思議な世界という比喩で使っていた。ただし、あまりの嫌がらせに松岡さんは大便ブースの中で酸欠みたいになり口をパクパクすることしかできなかったので、それを考えると、もともとの意味であるエアポケットはずいぶんと適切なのだ。はじめて松岡さんが正しい意味でこの言葉を使った。 <ロゴ/薊>
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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