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新年の誓いは、荒唐無稽であればあるほど良い。とあるおっさんが立てた、叶うはずのない2024年の目標とは

ossan1-1おっさんは二度死ぬ 2nd season

おっさんたちの新年の誓い

 年が明けて2024年となった。毎年のことながら、新年の初めに「今年ははこうなるぞ」と誓いというか目標のようなものをたてるのだけど、まあ、ほとんど達成されていない。  というか、その誓い自体を年末の段階で忘れている。すっかり忘れてしまったくらいなので定かではないけど、年末どころじゃなく、下手したら夏くらいには忘れている可能性すらある。いや、もしかしたら梅雨くらいには忘れているかもしれない。  これは、新年にたてる誓いが厳かで壮大なものであることが原因だろう。たぶん「新年」というフレッシュな気持ちにあてられて、けっこう不相応な誓いを立てているんだと思う。できもしない大風呂敷を広げてしまい、努力する気も起きず、そのうち忘れてしまうのだ。  さらに、その誓いが抽象的な場合も問題だ。「今年は飛躍の年にする」だとか「今年は大躍進する」だとか、「パーフェクトイヤー」とか、聞こえはいいが、実のところ何をしたいのかはよく分からない。よって達成したかどうかも抽象的でよく分からない。だから夏くらいに忘れてしまうんだ。  それはあまり良くないので、今年の正月はもっと現実的な誓いを立てようと考えた。大風呂敷でもなく、抽象的でもない具体的な誓い、それならば年末まで覚えていられるはずだ。そこで、この2024年は「タクシーのメーターを気にしない」という誓いを立てた。

今年こそはタクシーのメーターを気にしないで乗りたい。そう誓った

 僕は元来からの貧乏性で、ほとんどタクシーに乗ることはないのだけど、たまに乗るとメーターの上がり方が気になって仕方がない。あ、また上がった。あ、まただ。ちょっとペースが早くない? おいおい、この調子でいくと5000円を超えるのでは? ぼったくってやろうと僕だけペースが速いモードみたいにしてるんじゃないの。下手したらビジネスホテルに泊まれるくらいの料金をタクシーに払うって狂気でしかないな、などと常に考え、じっとメーターを睨みつけてしまうのだ。  今の交差点を右に膨らみながら左折したけど、それによって数メートルほど長い距離を走ったことになるから、それで最後の1メーターがあがったらどうしてくれるんだ。運転技術が未熟だから膨らんで左折したのに、それによって1メーター上るのはちょっと納得いかないな。などと考えてしまうので、タクシーに乗るとだいたい心臓が痛くなる。  そもそもあのガチャンと上がる感じが良くない。オールオアナッシングの世界だ。上がった瞬間の心臓への負担はかなりのものだ。それなら1円刻みで連続的にあがっていくほうがまだ心臓への負担が少ない。  だから、心臓への負担を減らすという観点からも、今年こそはタクシーのメーターを気にしないように生きたい。乗車したらメーターなど一瞥もせずに目的地まで安息の時間を過ごす。ああ、メーターあったのね、くらいにしたい。それが今年の誓いだ。  そんな折、新年からさっそくタクシーに乗る機会が訪れた。本来ならバスで移動したいけど、新年の特別運行かなにかで尋常じゃない待ち時間があるらしく、仕方なくタクシーで移動することにした。
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いきなり、新年の抱負についてアツく語り出したタクシー運転手
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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