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新年の誓いは、荒唐無稽であればあるほど良い。とあるおっさんが立てた、叶うはずのない2024年の目標とは

いきなり、新年の抱負についてアツく語り出したタクシー運転手

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写真/おやゆび

「あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします」  タクシーに乗り込むと、おっさんの運転手はなかなか気さくな人らしく、少しかしこまった感じで新年のあいさつをしてくれた。ただ、この運転手さんとは間違いなく今日が初対面なはずで、「本年も」もクソもないよな、旧年に世話になっていないもの、などと考えてしまった。それが気になるあたりも僕が細かすぎる貧乏性であることに由来しているのだろう。  目的地を告げると、運転手さんは結構おしゃべりな人みたいで走り出すや否や、すぐに雑談を始めた。 「いやーなにか新年の目標とか誓いみたいなものたてました?」 「あ、たてました」  さすがに、タクシーのメーターを目の前にして「メーターを気にしないという誓いです」とはちょっと言いにくかった。  タクシーの運転手さんは朗らかに続ける。 「あれって新年を迎えるとけっこう生じる感情みたいですね。だから、年が明けた瞬間に資格講座とか、ジムとか転職エージェントのCMが増えるんですよね。よし、今年こそはなにかやろう、っていう気持ちをあれで根こそぎですよ」 「根こそぎですか……」  運転手さんの話は止まらない。 「なんか悔しいじゃないですか。お前らの新年の誓いはお見通しだぜって言われているみたいじゃないですか。ほら、資格を取ろうとしているんだろ、って言われているみたいで。だから、わたしね、絶対に見透かされない目標にしてやろうと思いましてね」 「ほう、どんな誓いをたてたんですか」

お前は一体何を言っているんだ

 運転手さん、こういった話の魅せ方というか聴かせ方が分かっているようで、上手に緩急を織り交ぜて話してくれる。すっかりと釘付けだ。しかも、このあとに続ける運転手さんの新年の誓いは、さらに僕の心を惹きつけるとんでもないものだった。 「いやね、東京ガールズコレクションに出ることです」  東京ガールズコレクションとは、日本のファッションイベントで、若年女性向けの服飾イベントであるとWikipediaに記述がある。すでにこの時点でおっさんからまあまあ遠い位置にあるイベントだ。 「えっと、若いモデルとか出るやつですよね。ガールズってあるから女性向けですよね」 「はい」 「そのモデルを送迎する運転手として参加するとかそういうのじゃないですよね」 「そうですね、ランウェイを歩きたいですね」  とんでもないことになってきた。  さすがにこの運転手さんが東京ガールズコレクションのランウェイを歩く姿は想像できない。おまけに、ランウェイの先端でハンドルを握るポーズをしたいですね、こう左右に振る感じで、って言ってるので、運転手ファッションで出る気みたいだ。  さすがにこの決意ばかりはどんな資格講座もジムも読めないだろう。
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結構、具体的だった運転手さんの目標
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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