ライフ

新年の誓いは、荒唐無稽であればあるほど良い。とあるおっさんが立てた、叶うはずのない2024年の目標とは

結構、具体的だった運転手さんの目標

「よくユーチューバーとかインスタグラマーなんかがゲスト的に出ますもんね」  僕もなんとかフォローする。 「いや、そういうゲスト的な感じではなく、正規のモデルとして出たいですね」  けっこうワガママだな。 「だから、どこかのファッション雑誌に読者モデルとして登場して、そのうち専属になってモデルとしての経験を積んでですね……」  けっこう戦略的だな。ちゃんと考えているんだ。なんだかできるような気がしてきた。応援したくなってきた。 「できますよ、応援します」  そう言おうとした瞬間、運転手さんが切り出した。 「なーんてね、まあ、絶対に無理なのはわかっているんです。でも、新年の誓いは荒唐無稽で絶対に達成できないもののほうがいいと思います」

新年の目標は、達成できないくらいがちょうど良いらしい

 運転手さん曰く、よくよく考えると、年の終わりに「今年の目標はこうだった、そしてそれを達成できた」となることはほとんどないらしい。なぜなら、1年くらいの時間で達成できるものはそもそもそこまで負荷のない目標であり、なかなか軽いことが多い。そういう目標は途中で忘れてしまうそうだ。目標を達成できるくらい日々を邁進している人は、日々に夢中になり、そんな誓いはすぐに忘れてしまう。さらに「達成できた」と満足するよりは「達成できなかった」と悔やむ方が伸び代があるので理想的だという。  それならば荒唐無稽な目標を立ててしまえば忘れないし、年の終わりには「達成できなかった」と新たな年への意欲がわく。というのだ。 「だから今年は思いっきり荒唐無稽にして東京ガールズコレクションにしました。あ、到着しましたよ」  そう言ってメーターをとめる。いつの間にか目的地に到着していたみたいだ。  驚いたことに、運転手さんの「東京ガールズコレクションに出る」という荒唐無稽な話に夢中になりすぎて、目的地までメーターを見ることがなかった。故に、心臓への負担も皆無だった。  料金を払いながら言葉を交わす。 「そういえば、お客さんの新年の誓いはなんだったんですか?」 「ああ、新年早々、もう達成されちゃいました。あんまり簡単なのもダメですね。絶対に春が来る頃には忘れちゃってます」  そう言って、タクシーを降り、まだまだ正月気分の雑踏へと降り立った。  新年とはなにかと誓いや目標を立てるものだ。皆さんの誓いは荒唐無稽なものだろうか、それとも達成可能な軽やかなものだっただろうか。いずれにせよ、2024年が皆さんにとって良い年でありますように。本年「も」よろしくお願いいたします。 <ロゴ/薊>
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

1
2
3
おすすめ記事