更新日:2024年07月30日 10:26
仕事

日本の“干し芋”がタンザニアのスーパーに。「アフリカにカルビーを創る」日本人男性の挑戦

干し芋の開発に7年の歳月

タマユタカ

契約農家とタマユタカの畑で話す長谷川さん(撮影:奥 祐斉)

創業してからは、高品質な干し芋の日本輸出のために、干し芋の試作に明け暮れる日々。同社で生産している商品は、干し芋だけではない。運転資金を得るため、干し芋の試作と並行して、ドライフルーツや芋けんぴなどのお菓子も販売してきた。 「ビジネス環境が不安定なので、日本とタンザニアなど多様な市場向けに、複数の商品を揃えてリスク分散しています。さらに日本企業向けのコンサルもやり、なんとか(収入の)バランスをとって生きていますね」 2018年に初めて黒字化し、いよいよ農家との契約栽培をスタートさせる。 JICAの支援を得て、タンザニアに干し芋用の『タマユタカ』の品種登録を始めたのは2017年、ついに完了したのが4年後の2021年。こうして創業から7年の月日を経て、干し芋の日本輸出までまた一歩近づいた。
従業員たち

干し芋のパッケージ方法を話し合う従業員たち(長谷川さん提供)

「さあ、これから日本への輸出を始めるぞ」と思ったのもつかの間、このタイミングで新型コロナが世界を直撃し、同社の売り上げにも打撃を与えた。しかし、製造機材の購入のためクラウドファンディングで950万円の資金を集めることに成功。なんとか立て直し、1日に100キロの干し芋を製造することができるようになった。 2022年には、タンザニアから日本への干し芋の輸出をついに実現させる。日本で輸入会社を設立し、オンラインショップ「アマ二市場」で販売することで日本での最初の販路を見出したのだ。 2023年には東京の展示会にも出展し大手スーパーからの問合せをもらい手ごたえを感じるがどうしても、取引に結び付かない。航空便での輸送により干し芋の卸価格が高くなることに加え、タンザニア産の食品は面白いけど安全性は担保されているのか……という小売店側の心配を言外に感じた。 ここで長谷川さんは父親から学んだ「実験をして自分の頭で考える」を実践しながらこの課題を乗り越える。年内にも航空便を船便に切り替え、茨城の工場でリパックする予定だ。これにより、日本のお客さんは、手頃な価格で安全にタンザニアの干し芋を楽しめるようになる。

売れに売れているタンザニア版「おこし」

カシャタ

カシャタは隣国ケニアにも輸出されて大好評 (Alphajiri社提供)

実は、同社のほとんどの干し芋は日本向けに製造され、タンザニアでは一部の富裕層向けスーパーで販売されているのみ。というのも、タンザニアの干し芋は、日本のそれとは食べ方も価格帯も全く異なるからだ。常温で1年間保存できる乾燥した保存食のタンザニアの干し芋は、食べる時に水で戻して柔らかくし、味付けをする。バケツいっぱいに詰め込まれて一杯約60円ほどだ。 同社の商品で最もシェアが大きいのは「カシャタ」と呼ばれるゴマとピーナッツを原料にした日本でいう「おこし」で、これが売り上げを支えている。新型コロナにもかかわらず、2020年から、売り上げは毎年倍々ペースで安定している。 「カシャタはよく売れていて、作っても作っても間に合わない状態です。今は6本入りが2500シリング(150円)ですが、もっと小さい包装にして、子供たちがおやつとして手軽に買えるように小さいパッケージにしていく予定です」 契約している農家の数は現在15人ほど。あえて大幅に増やしていないのにも理由がある。 「契約栽培のやり方をある程度ちゃんと確立してからですね。そして、干し芋の日本での販売先をしっかりと作ってから、契約農家を増やしていく予定です」 干し芋の日本への輸出を進めながら、爆発的な人口増加が予測されるアフリカ市場で、現地の人々向けのドライフルーツなどの商品をさらに充実させていく予定だ。
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徹底的に楽しむ「おっかない」社長
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民放キー局にて、15年以上にわたりアメリカ政治・世界情勢について取材。2022年にタンザニアに移住しフリーランスとして活動している。著書に『40代からの人生が楽しくなる タンザニアのすごい思考法』がある。X(旧Twitter):@tmk_255
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