更新日:2024年07月30日 10:26
仕事

日本の“干し芋”がタンザニアのスーパーに。「アフリカにカルビーを創る」日本人男性の挑戦

徹底的に楽しむ「おっかない」社長

従業員と長谷川さん

マトボルワの従業員と長谷川さん(長谷川さん提供)

きっと、今までに何十回も聞かれているであろう質問を投げかけてみた。 「アフリカでの起業はとても大変だと容易に想像できますが、どうしてそんな苦労をしてまで、アフリカでビジネスをするんですか?」 すると、意外な答えが返ってきた。 「タンザニアは住み心地が良いですし、アフリカだから特別に大変ということはないです。そう言っても日本の人には信じてもらえないかもしれませんが(苦笑)。人口や所得が増えているアフリカで、食品事業はむしろやりやすいくらいです」 タンザニアで活動する日本人のビジネスマンたちからよく聞く「文化の違いからくる従業員との関わり方の難しさ」問題はどうしているのだろうか。現在の従業員は22人。聞けば、同社は特別に優秀な人材を募り採用するのではなく、「工場の近くに住んでいるから」という人が多い。 「(従業員との向き合い方は)日本の中小企業から学ぶことが多いです。普通の人々に気持ちよく働いてもらい成果を出してもらう。眠い時は15分まで昼寝をしていい制度とか、給食を出す制度も採用しています」 備品の置き場所を細かく決めて表示するなど、日本的な環境整備には毎日1時間費やしている。一方で物事の決め方や進め方は、タンザニアの文化を尊重している。 社内に揉め事があるときは、全員が納得するまで延々と話しあいをする。またある時は呪術師に頼んでお祓いしてもらったこともある。まじめに働くだけではなく、社員全員で生バンドの音楽で朝まで踊りに行ったりして、楽しむときは従業員と徹底的に遊ぶこともある。 普段は「おっかない」社長だが、給料は間違いなく地域の平均よりも高く、福利厚生も充実させると決めている。
昼ご飯

契約農家たちと一緒に昼ご飯を食べる長谷川さん (長谷川さん提供)

「口だけきれいなこと言って給料がちゃんと払えない社長と、ちょっとおっかないけれど払うものはちゃんと払う社長。どっちを信用するかと言えば後者ですよね」 アフリカに必要なのは農業の知識ではなく、経営だと気づいてから、長谷川さんは20年の時を経て自分なりの経営手法を見出したようだ。アフリカならではの苦労話を期待していた私に長谷川さんはこう切り返した。 「日本だって大変なことはあるじゃないですか。『アフリカだから』って言ってしまいがちですが、実は日本にもあるよね、ということばかりですよ」
従業員たち

マトボルワの従業員たち(撮影:奥 祐斉)

そういって例に出したのはタンザニアの契約農家とのエピソードだ。作付け前にサツマイモの苗を農家に配っていたのに、収穫の時期に行ってみると他社にサツマイモを売ってしまったというではないか。相場が上がり高い買値を提示した他社に横流しされてしまったのだ。 カルビーの契約栽培の昔を知っているOBに相談すると、たいがいこう言われるそうだ。「懐かしいね、そういうこと北海道でも80年代にはあったなー」 契約栽培の失敗談は尽きない。そんなに失敗しているのに、なぜ悠然と「でも大丈夫」といえるのだろう?その問いに「カルビーも北海道で同じ問題に直面して、それを解決できました。だからタンザニアでも解決できます」とあっけらかんと答えた。 創業から今年で10年。長谷川さんは、自身がタンザニアの地を離れても、タンザニア農家が販売先を守り、干し芋産業が持続可能なセクターとして発展していく土台を築きたいと熱く語る。『アフリカだから大変だ』という固定観念を一切持たず、タンザニアの地で奮闘してきた長谷川さんの後ろ姿に、多くの日本の食品会社が続いていくことだろう。 アフリカにカルビーを——多くの人が非現実的だと思ったその壮大な夢。しかし、長谷川さんは確かな手ごたえを感じながら、その実現に向けて着実に歩みを進めている。 <取材・文/堀江知子>
民放キー局にて、15年以上にわたりアメリカ政治・世界情勢について取材。2022年にタンザニアに移住しフリーランスとして活動している。著書に『40代からの人生が楽しくなる タンザニアのすごい思考法』がある。X(旧Twitter):@tmk_255
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