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たとえ自分と無関係なことでも、もし関係あったなら……と考えると人生が豊かになる気がする

僕は無関係だが、間違えてはいない老人の話

aなにごとも無関係だと断じることはとにかく簡単だ。ただそこでフッと考えるのだ。老人の言うことはなにも間違っていない。ただ言う相手を間違っているだけだ。ここで「人違いです」と否定すると、老人の話の内容すらも一緒くたに否定することになってしまう。 「ごもっともでございます。本当に指導力不足で」 べつに僕が指導しているわけではないけど、彼らが誰かの指導力不足の結果ああなっていることは明白だ。そこを否定してはいけない。僕自身もウソをついているわけではない。誰だか知らんけどきっと指導力不足だろ。 「私が若い頃は、体格は小さかったがそりゃもう、自分より大きい相手にも負けはしなかった」 老人の武勇伝が始まってしまった。どんどんと柔道部員たちは先に歩いていき、最初からそうなのだけど、本格的に僕とは無関係になっていく。 「道を見失っていた私は荒れた。荒んでいた。その私の前に現れたのか前田先生だ。この前田先生のおかげで今の私がある」 前田先生って誰だよと思いつつも、なぜか無関係な柔道部のことで延々と無関係な老人に説教されるのだった。 「前田先生に教わったのは怒りのコントロール。大きく深呼吸すれば怒りはスッと消える」 アンガーマネージメントのありがたい話まで聞ける始末。その間も、僕は指導者として神妙な顔をしているのだ。

あの時もそうだった。パンティ持ち帰り事件の記憶

「お前ってそういうところあるよな」 この話の顛末を、おっさん友人である鳥飼さんに話すと、彼はスキンヘッドの頭をポンポンと叩きながら笑った。 「無関係なことに巻き込まれるというか、それを面白がってどんどん巻き込まれるところがある」 「そんなことないですよ」 言っておくけど、上記の柔道部のようなことがそう何度もあるわけじゃない。けれども鳥飼さんは何度もあるというのだ。 「ほら、あのパンティ持ち帰り事件の話」 鳥飼さんの話に、記憶の引き出しがごっそりと開けられるのを感じた。 けっこう前のことになるけど、僕のスマホに突如として見慣れない番号から電話がかかってきたことがあった。このご時世、知らない番号からの着信はなかなか不穏なものだ。なんだろうと不審に思いながらも出てみる。 「テメー! 殺すぞ!」 電話の相手は最初からフルスロットルで殺意全開だった。ここまで恨まれる覚えがまったくない。 エキサイトしている相手をなだめつつ話を聞いてみると、どうやら相手は風俗店の店長らしく、けっこう人気がある女のコを僕が予約したそうなのだ。けれども、予約時間になっても僕が現れない。電話をかけても繋がらない。大きな損失だと怒り狂った店長が電話をかけてきたようなのだ。 たしかに、地下の店にいたのでなかなか電話が繋がらなかったと思う。けれども、僕は予約した覚えがないし、そもそもその風俗店のことを知らない。 「無関係です」 と断じて電話を切ればいいのに、ついつい興味が出てやってしまうのだ。
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仮に僕が風俗を予約していたら……と仮定すると楽しくなってきた
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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