ライフ

たとえ自分と無関係なことでも、もし関係あったなら……と考えると人生が豊かになる気がする

仮に僕が風俗を予約していたら……と仮定すると楽しくなってきた

「すいません、何分コースで予約してました?」 「120分」 店長がぶっきらぼうに答える。120分とはなかなか豪気な予約だ。けっこうお金がかかるんじゃないか。 「それっていくらかかるんですか?」 「パンティ持ち帰りオプション付きで29,000円」 けっこうかかる。 ここで「自分は無関係だ」と会話を打ち切ればいいのに考えてしまうのだ。もし僕が本当に29,000円を払って120分コースを予約し、パンティ持ち帰りをオプションにつける状況があったとしたら、それはどんなものだろうかと。 「パンティ持ち帰りってけっこう利用されるオプションなんですか?」 「そうでもない」 「どういうときにパンティ持ち帰りオプションつけるんでしょうか」 「そうだねえ、女の子との思い出を持ち帰りたいとか、そういうのじゃないかな」 「形あるものを持ち帰りたいというわけですね」 結局、根掘り葉掘りパンティ持ち帰りオプションのことをきいているうちに相手の怒りも収まり。 「今回は大目に見るので料金もキャンセル料もいいですけど、当店は出禁とさせてもらいます。今後は予約も利用もできません」 と、存在すら知らない店に出禁にされてしまった。

こんなときこそ、前田先生の教えが役に立つのだ

「まさか存在すら知らない店に出禁にされるとは。まあ何事も経験ですけど」 無関係だと断じなかったことで「人々は形ある思い出としてパンティ持ち帰りオプションをつける」という知見を得ることができた。ただ断じていただけでは決して手に入ることがない知識だ。 「まあ、あまりこういうのは心臓に良くないですけどね」 僕がそう嘆いていると鳥飼さんは笑った。 「あれ、じつはおれ」 まったく悪びれる様子もなく言う。 「いっつもお前の名前と電話番号で店を予約してるんだよ。あの店は自己申告制だからな。よほどのことがない限り電話も降り返してこないし。ただその日は『さすがにパンティ持ち帰りオプションはやりすぎじゃないか?』って思って、予約をブッチしてやったんだよ」 あまりのことにグワッと怒りが沸き上がってくる。さすがにいくらなんでもやりすぎだ。人の名前と電話番号で勝手に120分予約してパンティ持ち帰りまでつけているんじゃねえ。 そこからはもう喧嘩みたいになってしまい、鳥飼とは絶交したのだけど、さっきから謝罪のメッセージがドコドコと届いている通知が来ている。なんかスタンプもどんどん送られてきている。ただ、読んで既読をつけるのも気分が悪いので、一覧から鳥飼の名前を長押しして中身を見ている。やっぱりどうしようもない謝罪の言葉ばかりだ。 無関係だと思うことも断じることなく関係していく。そうすると思いもよらない知識が得られるのだ。 本当に鳥飼には腹が立つけど、前田先生の教えを守って、大きく深呼吸するのだった。 <ロゴ/薊>
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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