生成AIに悩み相談をしたら?心はなくとも“会話力と共感力”で人間を超える「AIカウンセラー」の可能性
生成AIの進化とともに、1960年代の「イライザ」実験から始まり、数多くの研究と実験が行われてきた結果、今ではAIカウンセラーを人間のカウンセラーよりも優れていると感じ始めている人もいるのだとか。
東京大学の池谷裕二教授によると、「『AIのカウンセラーと人間のカウンセラー、どちらが優れているか』を比較した実験では、驚くべきことに7〜8割の人々が『AIのカウンセリングの方が良い』と答えた」とのこと。
AIカウンセリングがこれほど支持される理由とは何か。そして、カウンセリングや医療の未来はどうなるのか?
本記事は『生成AIと脳~この二つのコラボで人生が変わる~』の一部を再編集してお送りする。
生成AIが人の心を理解できるようになったことで、注目されているのが「AIにカウンセリングができるかどうか」という点です。
実は、第1次AIブームが起こった1960年代から、AIを用いてうつ病の患者を治療する試みが行われてきました。最初に登場したのは、「イライザ」というAIです。当時は音声出力ができず、簡単なテキストを通じて、画面上で会話するのみでした。結果は意外なもので、そんなシンプルなシステムでも、それでもかなり感情移入ができるものでした。
日本で一時期ブームになった「たまごっち」のように、画面表示だけのコミュニケーションでも、人間は意外と感情移入しやすいのです。この効果は、AIカウンセラーの名にちなんで「イライザ効果」と呼ばれています。
その後、AIによるカウンセリングの試みはどんどん発展していきました。「AIのカウンセラーと人間のカウンセラー、どちらが優れているか」を比較した実験では、その結果は驚くべきことに「AIのカウンセリングのほうがよい」と答えた人が7〜8割もいたことです。
一般的には、悩み相談をするなら人間のほうがよいと思われがちですが、AIが好まれる理由を改めて考えてみると、たしかに納得できる点がいくつかあります。
まず、AIのカウンセラーは我慢強い点があげられます。患者が長時間相談しても、時計をちらちら見たり、貧乏ゆすりをしたり、飽きたそぶりを見せることはありません。つい顔に出ないのが大きな利点です。失言も、人間よりは少ないでしょう。
また、人間のカウンセラーに比べて、AIのカウンセラーには、こちらが気後れしづらいという利点もあります。うつ病の方の多くは自尊心が低下しており、「自分なんて生きていなくてもいい」「誰からも必要とされていない」「クズのような人間だ」という思考状態になることがあります。この状態で人間のカウンセラーの時間を長時間拘束すると、「こんな価値のない人間が、忙しい立派な先生の時間を使わせてしまった」と自己嫌悪に陥り、結果として症状が悪化することもあります。
しかし、AIカウンセラーの場合、相手はプログラムであり、1台で10人でも100人でも1000人でも、同時に診療することが可能です。長時間相談しても、患者はプレッシャーを感じることがありません。
もう一つのAIカウンセラーの強みは「何でも話せる」という安心感です。人間が相手の場合、「これを言ったらどう思われるだろうか」と戸惑うことがありますが、AIはロボットなので、プライベートな内容もすべて打ち明けることができます。家族や友人にも言えない相談を、生成AIにはできるという心理は、多くの人に共感されるでしょう。
事実、ChatGPTには、自殺の相談がよく寄せられるそうです。その場合、ChatGPTは絶対に「死にたいなら死ねばよい」などと突き放したりしません。自殺を食い止めるために一生懸命励ましてくれます。決して投げ出さず、根気強く最後まで徹底的に付き合ってくれます。
カウンセリングに事前予約がいらない点も、AIの強みでしょう。うつ病の患者は、夜になるとうつ症状がひどくなる傾向がありますが、人間のカウンセラーは休養も必要です。そのため、患者が最も不安を感じやすい深夜に、カウンセラーと連絡が取れないことも多いのです。しかし、相手がAIなら時間を気にしなくてよい。気後れする必要もない。不安を感じたときにいつでも気軽に連絡できるという点で、AIのカウンセラーには強い利点があるのです。
2023年の論文では、「ChatGPTと人間の医師はどちらが優れているか」という検証が行われました。
この実験では、モニター越しにテキストベースで診察を行い、片方は人間の医師が回答し、もう片方はChatGPTが回答するという形式で行われました。被験者である患者は、両方の診察を受けましたが、そのうちのどちらが生成AIかは知らされていません。テキストで診察を受けた後、被験者には「どちらがよい医師だったか」という質問に答えてもらいました。すると、結果では、会話の質も共感力も、ChatGPTが人間の医師を上回っていたのです。
まず、注目したいのが「会話の質」です。人間が生成AIに会話の質で負ける理由は理解できます。なぜなら、生成AIは医師国家試験で上位に合格するレベルの知識を持っており、一般的な医師よりも基礎知識が豊富で正確だからです。人間の専門医の場合、特定の分野には詳しいものの、それ以外の知識は乏しいことも多いです。消化器の専門医は神経内科の知識については詳しくないかもしれないし、心臓の専門医は骨折について詳しくないことも往々にしてある。人間の知識は万能ではないため、会話の質で負けるのは、当然といえば当然と言えるのかもしれません。
しかし驚くべきことは、共感力です。ここでもChatGPTが人間の医師を上回っています。グラフを見ると、会話の質以上に医師との実力差があります。ChatGPTなどに悩み相談をしたことがある方は理解できるかもしれませんが、生成AIは何かを相談すると、相手に寄り添う言葉を投げかけてくれます。相手がどんなに弱音を吐いたり、悪態をついたりしても、決して突き放すことはありません。
表情が見えないことも、AIにとって利点かもしれません。人間同士の場合、表情や動作から「相手が忙しそうだな」「早く切り上げたいと思っているな」という雰囲気が伝わり、患者にとってプレッシャーになることも多いのです。
恐るべきことではありますが、冷静に分析すれば、生成AIが人間の医師よりも会話の質が高く、さらに共感力でも上回っているという結果には納得がいくのではないでしょうか。
人間とAI、AIカウンセラーを支持する人が7割以上
会話力と共感力のどちらも人間を上回るChatGPT
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1970年 静岡県藤枝市生まれ。薬学博士。 東京大学薬学部教授。 2002~2005年にコロンビア大学(米ニューヨーク)に留学をはさみ、2014年より現職。 専門分野は神経生理学で、脳の健康について探究している 。また、2018年よりERATO脳AI融合プロジェクトの代表を務め、AIチップの脳移植によって新たな知能の開拓を目指している。文部科学大臣表彰 若手科学者賞(2008年)、日本学術振興会賞(2013年)、日本学士院学術奨励賞(2013年)などを受賞。また、『夢を叶えるために脳はある』(講談社)で小林秀雄賞受賞(2024年)。
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