更新日:2025年03月21日 10:43
ライフ

「18歳になった日に刺青を入れました」家族全員に刺青がある女性が、“大切なもの”を身体に刻み続ける理由

一人旅をしている最中に「子どもがまだお腹のなかに…」

 ほどなくしてぺぺさんは破局。フリーになって東京での一人旅をしている最中に、違和感を覚えた。 「旅先で急に体調を崩してしまって。彼の子どもがまだお腹のなかにいることがわかったんです。よりを戻す選択肢はなかったので、産むとしたらシングルマザーですよね。両親に相談し、産みたい旨を伝えました。両親は私の選択を尊重して、応援してくれました」  こうして現在の長女が生まれた。シングルマザーとなったぺぺさんには、ひとりの男性が猛アプローチをしてきた。 「昔からの友人で、私がシングルになったからいろいろ大変だろうということで、『面倒を見てやるから』と。入籍することになりました」  やがてこの男性との間には長男が生まれた。  ぺぺさんの両親は10代で出会い、20歳そこそこで彼女を産んで育てた。一方のぺぺさんは、自らの両親と同様に違いを愛し合う結婚生活に憧れつつも、遠回りを繰り返した。思い描いた通りの恋愛が成就したとは言い難い。

「記憶から消したくない存在」を刻み続ける

ぺぺさん

亡くなった愛犬も、自らの身体に刻むモチーフのひとつに

 現在、ぺぺさんの身体にはさまざまな模様の刺青が入っている。これらを生涯にわたって消えることのない刺青の形で身体に留めることの意味は何か。 「世の中には刺青を嫌悪する人がいることもよくわかっています。ただ、刺青という消えにくいものを身体に刻む意味について考えてみると、『記憶から消したくない』という思いが強いのかなと。たとえば私の腕には子ども2人の名前が入っています。ふくらはぎには、もう亡くなってしまった愛犬が描かれています。  また、祖母が認知症になっていくのを間近で見てきました。優しくて可愛がってくれた祖母が、私のことを覚えていられないんです。そのときに、人間はどんなに『記憶しておこう』と思っても病気や事故などで頭や心のなかに残しておけない場合があることを知りました。きっと本人もそんな自分が歯痒いのだと思います。だからせめて身体に刻むことで、私にとって大切なものが周囲にもわかるようにしておきたいし、それを見れば記憶が蘇るのではないかと信じています」 =====  人は薄れゆく記憶になすすべがない。どんなに楽しく、愛情に恵まれた時間を過ごしたとしても、必ず終わりがくる。ぺぺさんはそうした恐怖に抵抗する勇気の印として、刺青を選んだ。自らにとって大切なものを吹き込み、自身を鼓舞し、それを周囲にも知ってもらうこと。刺青は、結束の固い家族で育ち、恋愛においては裏切りの味を知った彼女の、全身を使用した果敢な記録に他ならない。 <取材・文/黒島暁生>
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
1
2
おすすめ記事
【関連キーワードから記事を探す】