夏休みの旅行で感染者続出! 寄生虫が引き起こす恐怖
―[世にも恐ろしい奇病の話]―
夏休みの旅行で感染者続出! 寄生虫が引き起こす恐怖
衛生環境が完備し、寄生虫とは縁遠いと思われがちな日本だが、専門家は「今だからこそ警鐘を鳴らしたい」と言う。寄生虫学に詳しい東京医科歯科大学名誉教授の藤田紘一郎医学博士に話を聞いた。
「日本では北海道を中心に、今でもエキノコックスが流行しています。この寄生虫はキタキツネの腸の中にいると静かにしているんですが、人間に感染すると肝臓や脳に巣くう。寄生して10年以上がたつと症状が現われます。脳に入ると言語障害を引き起こす恐ろしい感染症です」
頭に虫が湧くなどという冗談が通用しない虫なのだ。
「キタキツネの数は減っていますが、一方でエキノコックスの人間や犬への感染率は増えています。人間の転勤と一緒に、年間約400匹の犬が北海道から移動し、うち1%が感染したまま本土へ上陸しているという統計があります」
我が国で生命に関わる寄生虫はエキノコックスだけと断言する藤田氏だが、夏の海外旅行シーズンを見据え、「マラリアはエイズより恐ろしい」と警鐘を鳴らす。
「ハマダラカという蚊に刺されると感染するマラリアは世界最大の感染症で、毎年200万人が亡くなっています。特に熱帯熱マラリアはインフルエンザと区別がつきにくく、帰国して2週間目に高熱が出るんですが、5日以内に治療しないと死に至る。南アフリカから帰国して、2週間以内に発熱した場合は感染症科に行ってマラリアかどうかを必ず調べてください」
熱帯地には昆虫など、寄生虫を媒介する生き物が多く、ブユからはオンコセルカ(失明する病気)、アブからはロアロア(目の中に寄生虫が宿る)などに感染する危険性があるという。
「象皮病など、フィラリアが引き起こす感染症が有名ですが、あまり危惧することはありません。脚が2倍、3倍に腫れあがったり、陰のうが地面に着くまで腫れるなどの症状は長年にわたってフィラリアに感染して起こるものです。オンコセルカやロアロアなども同様です。数日アフリカに行ってブユに刺されたからといって、いきなりなるものではありません」
しかし、備えあれば憂いなし。こうした地域に行く際は、長袖のシャツと虫よけは必須だと藤田氏は念を押す。
瞼の腫れた部分には寄生虫が巣くっている
バンクロフトフィラリア糸状虫によって引き起こされた象皮病。
腫れあがっているのは陰のう。
モザイク部分はいわゆる竿
【藤田紘一郎氏】
’39年生まれ。東京医科歯科大学名誉教授。医学博士。
「笑うカイチュウ」で1995年講談社出版文化賞・化学出版賞を受賞。
著書に「恋する寄生虫」「空飛ぶ寄生虫」など多数
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