更新日:2019年10月18日 21:34
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『ゴーマニズム宣言』移籍から20年。小林よしのりが週刊SPA!に語ったこと

 ちょうど20年前、小林よしのり氏と『週刊SPA!』の間には決定的な亀裂が走った。1995年の夏、小林よしのり氏は『SPA!』誌上で絶大な人気を誇っていた漫画『ゴーマニズム宣言』の連載を自ら打ち切り、他誌へと移籍していったのだ。 小林よしのり氏 きっかけはオウム事件だ。小林氏は『ゴーマニズム宣言』の中で、1989年に発生した坂本弁護士一家拉致事件にオウム真理教が関与していたことを作品中で示唆。これをきっかけにオウムとの裁判闘争が始まり、なんとオウムがVXガスによる小林氏への暗殺まで計画していたことが判明した。  一方、地下鉄サリン事件以後に『SPA!』では当時の教団幹部のインタビューなどが掲載された。小林氏はこれら『SPA!』のオウム事件への報道の仕方への「疑念が限界を超え」、連載移籍を決断したという。  そして今回、『ゴーマニズム宣言』がSPA!から移籍して20年という機に、小林氏が当時のことを初めて『SPA!』誌上で語ってくれた。 「(当時のことは)まったく忘れています(笑)。20年も前のことを延々と粘着していてもしょうがないし。昔、ケンカした知識人のこともすべてもう全部忘れてしまいました」  そう笑いながら話し出してくれた小林氏へのインタビューはなんと2時間半に及んだ。その内容も『SPA!』との決別からその後“真の保守”を自認するようになった思想遍歴、そして今一番怒っていることや、今年上梓した『新戦争論1』に込めた思いまで、多岐に渡る。そこで、本誌の記事に収めきれなかったエピソードから、オウム事件から『SPA!』移籍に至るまでの秘話をご紹介しよう。 ――オウム事件に関わるようになったきっかけは、なんだったんでしょうか? 小林:きっかけはいろいろあるんです。例えば、自分のおばさんが新興宗教に入ってしまって家族が崩壊してしまったとか、その奪還作戦をやろうとしたとか。そういう経験から、わしの中にはカルト的な宗教に対する警戒感ができあがっていました。それでオウムが現われたときに、中沢新一などの知識人が「これは子供の宗教で安全で何の問題もない」みたいなことを言っていたけど、わしの感覚の中では「怪しい、怪しい」とズーッと思っていた。「本当かな。知識人は『危険はない』と言うが、本当にそれでいいのかな」という……。 ――当時の一般人の感覚は、小林さんに近かったような気がします。 小林:それで、坂本弁護士事件のことで、弁護士にあのアパートに連れていかれて、自分で推理してみたら、「いや、これはやっぱりオウムの仕業に違いない」と。 ――小林さんの推理は、ほぼ当たりでしたね(『週刊SPA!』‘94年11月16日号の第125章にて「決めつけはいかんよ」としつつも、坂本弁護士一家拉致事件にオウム真理教が関与していたと推理)。 小林:当てちゃったんですよ(笑)。それで、ほったらかしてていいのかなと。当時は「坂本弁護士事件の犯人はオウムじゃない」という認識が一般的になってしまっていたけど、「どう考えたって変だなあ」という思いがこみ上げて、つい描いてしまうわけじゃないですか。何となく、オウムの犯行と匂わせるような描き方をするから、抗議が来た。オウムはこっちの言葉を影響力があると思ってるから、アクションが来てしまうんです。来たら、闘わなければいけなくなるんです。 ――まさに自衛のための戦いですよね。 小林:そうそう。もう、家も突きとめられてしまっているし、電話もかかってくるし、何とかして、向こうの教団に連れていこうと誘いだそうとするし。そうすると、何か、ただならぬ不穏な危険を感じるんですよ。「何かおかしい、この状態は……」と。そしたら、いつの間にか尾行されて、暗殺されかかっていたとかっていう状況に、どんどん、どんどん突入していってしまうわけ。だから、今、生き残ってることは本当に偶然じゃないですか(笑)。でも、その警戒感があるから何とか逃げてきたということですね。 ――その一方でSPA!編集部は、オウムの幹部のインタビューを掲載するなどして、小林さんとの間に亀裂が走っていきます。 小林:「上祐(史浩)さんは間違ってない」とか、「青山(吉伸弁護士)さんはそんな悪いことする人じゃない」というような葉書がどんどん来て、こっちが攻撃されるようになったんです。そうすると、不安なんですね。一般の読者がオウムの側についてしまったら、もう、わしは人知れず葬られると。 ――不特定多数で相手が見えないですものね。 小林:そう。それがもう、心理的に不安なんです。「オウムに対する不当逮捕が問題」とか言われていましたが、当時のわしからすると「逮捕してもらわないと、殺される」という感覚でした。まだ警察が教団への強制捜査をする前で、言論、信仰の自由が憲法で保障されてるから、宗教団体と闘うのはものすごく難しいんです。 ――しかも、暗殺計画が発覚するまでは警察は何もやってくれない、という状態ですから。 小林:そうです。警察署に行って、「危ない」と訴えても、「(オウムが)玄関の中に入ってきたら知らせてくれ」と。いや、それではもう無理だ、って感じなわけです(笑)。誰も守ってくれないし。 ――そして連載している『SPA!』ではオウム擁護の記事も載る。 小林:みんなが騙されていってるんじゃなかろうかと不安になるし、もう、腹が立つわけですよ、そうなると。完全に感情的になりますし、そんなにクールにやれないですよ。もともと感情の激しい人間だから、この『ゴー宣』を書いてるわけで。だから、もう、決裂という状態になっちゃうわけですよね。 ――今回、当時の担当編集者にも話を聞きましたが、「あのときはまだ新人編集者で、編集部と小林さんが対立するような状況下で、何も立ち振る舞うことができず申し訳ありませんでした」と言っていました。 小林:でも、今は何とも思ってないですよ。当時に対立した人たちに対しても。行きがかり上、そういうことになったなということにすぎないから。なんとか命は助かったわけだし。だから、『SPA!』との決別については、今となってはもう何ていうことないという感じなんです。でも、あのときは、平静でおられなかった。どうしようもないです。 ――今回のインタビューにあたり、当時のことについては小林さんにものすごく怒られるかなとも覚悟していました。 小林:20年もそんなこと引きずるって、それはないですよ。それに、今、腹立つことはいくらでもあるから(笑)。 小林よしのり氏6/2発売の週刊SPA!(創刊27周年記念号)では、上記に紹介したように小林よしのり氏へのインタビューが掲載されている。今、小林氏が一番怒っていることとは? そして、SPA!時代は“サヨク”だったと語る小林氏が保守に至った思想遍歴を大いに語っている。 取材/斉藤武宏 構成/織田曜一郎(本誌)
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