東大・早野龍五教授が考える「学校給食による内部被曝」
―[原子力06]―
子供たちの内部被曝を心配する母親たちの声を受けて、学校給食の放射能測定を独自に行う自治体が続出している。測定器の性能や測定方法、対象となる食材、検出限界値などは自治体によってそれぞれ異なる。さらに、長野県松本市や茨城県常総市のように、国の暫定基準値500Bq/kgよりも低い独自の基準値を設ける自治体も現れた。
◆最も気にするべきなのは内部被曝の積算量
埼玉県川口市と同様に国の暫定基準値以下でも、給食での使用を中止したのが神奈川県横浜市。10月11日から、小学校1校の給食で使用する全食材(十数種類)の検査を前日に行っているが、その直後の10月12日、乾シイタケから350Bq/kgという高い数値が検出されたのだ。
※【埼玉県川口市の場合】⇒https://nikkan-spa.jp/95221
「その乾シイタケは『八宝菜』と『秋味ごはん』に使われる予定でしたが、シイタケを抜いて出しました。しかし、食材によっては抜いてしまうと成り立たない献立もあります。その場合は、数値が判明してから翌朝までの間に献立変更することを考えています」(横浜市教育委員会・清水文子課長)
しかし横浜市は、10月3日に12.2Bq/kgが検出されたマイタケはそのまま給食に出している。
「ホームページでも発表しましたが、問題はありませんでした」(同)と言うが、こちらも「高めの数値が出た場合、流通経路を調べたうえで総合的に判断したい」とのことで、まだ明確なガイドラインはないようだ。
そんななかで、独自の基準値を設ける自治体も現れ始めた。長野県松本市が40Bq/kg、茨城県常総市が30Bq/kg。前者はウクライナと同じ基準を採用、後者は導入した測定器の検出限界値をそのまま独自の基準値としている。一体、どのくらいが妥当な基準値なのだろうか?
東大大学院の早野龍五教授がインターネットで「給食から何Bq/kgが検出されたら弁当に切り替えるか」とアンケートをとったところ2日間で7000件の回答があり、そのほとんどが「1、5、10Bq/kg」に集中した。
(⇒https://nikkan-spa.jp/95220/111122_genshi_5)
早野教授は「子供には1Bqでも内部被曝させたくない、というのは心情的には理解できます。しかし、だからといってセシウムを全く取り込まずに生活するというのも無理な話。大事なのは、長期的な内部被曝量の積算です。現在、多くの自治体が導入している簡易検査機は検出限界値が高く、精度も低い。例えば、検出限界値が30Bq/kgの場合、それ以上の数値が1回検出されるより、29Bq/kgを知らずに毎日摂取するといったケースのほうが深刻です」
そこで、早野教授は「1食分の給食を丸ごとミキサーにかけて、1週間(5日分)ごとにまとめ、ゲルマニウム検出器で精密測定する」という方法を提案している。
この方式を取り入れているのが神奈川県横須賀市。検出限界値は0.5~0.7Bq/kgと、非常に低い数値まで測定できる。海老名市も同様の方法を導入した。
「横須賀市のように検査機関に外注すれば、自前でやるよりも正確に、しかも1週間分の測定が1万5000円程度でできます。負担が少なくてすむので、自治体としても導入しやすいでしょう。事後ではありますが、子供たちが実際に摂取してきたセシウムの積算量がわかりますし、高い数値が出た場合に原因を追究して対策をとることができる。汚染度の高い食材のサンプリング検査に加えて、この『給食丸ごとミキサー検査』を行うのがいちばん効率的です」
⇒学校給食を放射能測定する自治体リスト に続く
https://nikkan-spa.jp/107479
【早野龍五教授】
東京大学大学院理学研究科。’52年生まれ、専門は素粒子原子核物理学。反陽子ヘリウム原子の研究で’08年度仁科記念賞、’09年中日文化賞を受賞
取材・文/北村土龍 撮影/田中裕司 ハッシュタグ