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設備は古く値段も高い…茨城県取手市のひなびたラブホを定宿にするワケ/文筆家・古谷経衡

独りラブホ考現学/第16回  今回紹介するラブホテルは、筆者の「独りラブホ道」にとって、あまりにも思い出深い物件であるといわなければならない。もう何十回この物件に一人で宿泊したか、数えようにもわからないほどである。それほどこの物件は筆者にとって一時期、定宿であった。紹介するのは茨城県南端の取手市にあるラブホテル『インナウ』。

ホテル『インナウ』外観

ベッドタウンとして栄えた過去も

 取手市は千葉県我孫子市等に隣接し、人口約10万人。市内を東西にJR常磐線が横断し、大動脈である国道6号線(通称水戸街道)がそれに並走する。バブル期の地価高騰の折り、「千葉県内ですら手が出ない」という都心への通勤客に注目されたのがこの取手市であった。  東京東部の都心域(上野、日暮里)まで快速で約45分と乗り換えを考えなければギリギリで1時間圏内に納まることから有望なベッドタウンとして注目され、「茨城都民」向けのマンションや分譲住宅が乱立した。1995年の最盛期には市人口は12万人に迫った。しかし、バブル崩壊後、地価の下落により「わざわざ茨城に家を買わなくともよい」と判断され、宅地開発は停滞し、爾来、人口は減り続けている。  代わって、2005年につくばエクスプレス(TX)が開通すると、秋葉原と守谷を快速が40分で結ぶことから、取手は廃れ守谷の地価が急上昇し、守谷の人口が一挙に激増した。守谷市は取手市と同じく茨城県南端に位置し、守谷市は取手市の西隣に位置するが、TX開業によって明暗が分かれた格好となった。  しかし、電車を嫌い独りクルマ移動を専一とする筆者にとって、このような鉄道情勢はあまり関係がない。むしろ、東京と茨城、福島を一直線で結ぶ国道6号の沿線である取手の方が、筆者のようなクルマ族にとっては利便が良いのである。筆者の住む千葉県松戸市と茨城県取手市とは、深夜であればクルマで40分弱というところ。ドライブにはもってこいだし、どうせなら仕事道具(PC一式)を車載して朝まで仕事(執筆)がしたい。  TX開業で高く評価されている守谷は新興住宅街で目ぼしいラブホテルはほとんどない(立地不可)。一方、取手は国道六号が「水戸街道」という別名を取るように、近世期は宿場町として栄え、歴史が古い。  畢竟(ひっきょう)、筆者の「独りラブホ」は守谷よりも取手一択という塩梅式になる。その結果、取手駅から至近にあり、ちょいとした居酒屋も徒歩圏にある当物件『インナウ』は、筆者が「ここだ!」と心に決めた物件なのである。  だがこの『インナウ』。正直言って、昨今流行りの近代化されたラブホというよりも、どちらかといえば旧態依然とした施設面で劣後するラブホだ。

なぜか赤一色で統一された室内

浴室。お世辞にも近代化とは程遠い

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高級旅館で執筆する文豪の気分
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(ふるやつねひら)1982年生まれ。作家/評論家/令和政治社会問題研究所所長。日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。20代後半からネトウヨ陣営の気鋭の論客として執筆活動を展開したが、やがて保守論壇のムラ体質や年功序列に愛想を尽かし、現在は距離を置いている。『愛国商売』(小学館)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』(晶文社)など、著書多数

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