ロシアへの金融制裁に踏み切った背景とは?日本が選択したもの
ロシアによるウクライナ侵略に対し、日本は欧米諸国と足並みを揃え「金融制裁」に踏み切った。これによって、日本は「ロシアから敵国とみなされた」という批判もあるが、その背景には経済安全保障に基づいた戦略があった。
日本は米英仏らG7各国や豪州と足並みを揃え、ロシアに対する資産凍結を実施した(日本のロシア向け債券投資は全体で1253億円、対外債券投資全体の0.04%。邦銀によるロシア向け与信は92億ドル、海外向け与信全体の0.2%にすぎない)。
これを受けて「日本はロシアを敵に回した」という批判もあるが、評論家の江崎道朗氏は「ロシアを敵視することを決断したのではなく、対中国や対ロシアを考えると、米国やNATOとの関係を強化することを決断したということ」だと説明する。
「今、日本はサプライチェーンの組み直しを行っています。確かにロシアによるウクライナ侵略で、ロシアからの重要な資源や物質の調達が困難になる懸念はあります。しかし、日本は国民の安全・安心、我が国の国益を守るために中国などへの依存度を減らすべく『米国をはじめ、豪州、インド、ASEAN、欧州などの同盟国・同志国と連携』することを基本方針としてやってきました。
つまり、日本は米国に加え、日米豪印戦略対話(Quad=クアッド)でオーストラリアとインドとの連携を強め、さらにイギリスやフランスなど欧州も引き込む総力戦が中国やロシアに対峙する基本的な戦略ということです。欧米主導の金融制裁に協調しロシアという敵をつくってしまったマイナス面もありますが、『ロシアという共通の敵』を持った米国やNATO、オーストラリアら同志国と連携し、関係を強化しようとしたプラス面にも注目したいものです。
日本の経済安全保障を実現するために、今、日本は同志国と連携し、世界的なサプライチェーンを組み直そうとしているのです」
「経済安全保障」とは、経済的な手段や政策によって国民の生活を脅威から守り、国の安全保障を実現することで、「重要な資源やエネルギー、食料などの安定供給を確保」「先端技術や個人情報の海外への流出防止」などを対象としている。
では日本政府は経済安全保障についてどう取り組もうとしているのか。’20年12月に公開された自民党新国際秩序創造戦略本部による提言「『経済安全保障戦略策定』に向けて」に盛り込まれた「基本方針」を紐解くと見えてくる。
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4.わが国が採るべき経済安全保障上の基本方針
上述のとおり、わが国の経済安全保障を実現するためには、まず、①経済安全保障上の観点からわが国が置かれた位置づけを分析し、わが国が有するべき戦略的自律性と戦略的不可欠性の具体的内容を把握する必要がある。その上で、②わが国自身の努力で戦略的自律性及び戦略的不可欠性を確保していくために必要な戦略・政策を特定し、③これを実現していくために必要なメカニズムを整備していかなければならない。
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江崎氏は「経済安全保障を進めていくうえで自民党は『戦略的自律性』と『戦略的不可欠性』という2つのキーワードを使っている点に注目したい」と話す。
「『戦略的自律性』とは、国民生活を維持し、正常な経済運営を行っていくうえで、他国に過度に依存しなくてもいいように日本の国民生活及び社会経済活動の維持に不可欠な基盤を強靱化しようということです。
食料、エネルギーなど重要な資源だけでなく、半導体など我が国の産業にとって重要な物資の供給が途絶えたりしたときにも対応できるようにしていく、という意味です」
「ロシアを敵視」ではなく、米国やNATOとの関係強化を選択した
経済安全保障における2つのキーワード
(えざき・みちお)1962年、東京都生まれ。九州大学文学部哲学科卒業後、石原慎太郎衆議院議員の政策担当秘書など、複数の国会議員政策スタッフを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究に従事。主な著書に『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』(いずれもPHP新書)、『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』(いずれも扶桑社)ほか多数。公式サイト、ツイッター@ezakimichio
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『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』 経済的安全をいかに守るか? |
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