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“ユニクロ潜入取材”の著者がトランプ信者に一年潜入。ノンフィクションの魅力とは

ノンフィクションについて語る、小倉孝保氏(右)、横田増生氏(中央)。左は司会の坂本慎平氏

ノンフィクションについて語る、小倉孝保氏(右)、横田増生氏(中央)。左は司会の坂本慎平氏

「ノンフィクション冬の時代」と呼ばれて久しい。雑誌売り上げそのものが厳しいなか、数々のノンフィクション媒体も休刊を余儀なくされ、発表の場がどんどん少なくなっている。そのなかで、質の高い作品を発表し続けるジャーナリストたちがいる。彼らは、どのように作品のテーマを見つけ、取材し、社会を切り取り、予算を捻出しているのだろうか。  そんなノンフィクションの現状について、ジャーナリストの横田増生氏と毎日新聞論説委員でノンフィクション作家の小倉孝保氏が対談を行った。なお、司会は産経新聞社の坂本慎平氏がつとめた。

ノンフィクションは、取材するテーマによって景色がまったく違う

横田増生氏

横田増生氏

 横田氏は、『ユニクロ潜入一年』(文藝春秋)などの潜入取材で知られ、『潜入ルポamazon帝国』(小学館)で第19回新潮ドキュメント賞受賞。小倉氏は『柔の恩人―「女子柔道の母」ラスティ・カノコギが夢見た世界』(小学館)で、小学館ノンフィクション大賞・ミズノスポーツライター賞最優秀賞をダブル受賞し、主に評伝に定評がある。  この日は、二人の最新作である横田氏の『トランプ信者潜入一年』(小学館)、小倉氏の『踊る菩薩 一条さゆりとその時代』(講談社)を中心に、ノンフィクション取材の表から裏まで、縦横無尽に話が発展していった。  兵庫県西宮市の関西学院大学で同期の二人。「学生時代に影響を受けた作家は?」と聞かれて、横田氏はこう答えた。 「もともと文学部で日本文学を読んでいたんですが、鴎外でも漱石でも、何冊か読むとモチーフが似てくるんですね。そんなとき、本多勝一さんの極限三部作、『カナダエスキモー』『アラビア遊牧民』『ニューギニア高地人』を読んで、どれも景色が全然違うな、凄いなと。そこからノンフィクションを読むようになりました。  もちろん、鎌田慧さんの『自動車絶望工場』も読みました。それからさまざまなノンフィクションを読むようになり、大学の頃から漠然と本が書けたらいいなと思い始めました。私の『アマゾン・ドット・コムの光と影』は、それらの本をかなり意識して書きました」

社会から取り残された人々の声を聴くのも、ノンフィクションの仕事のひとつ

小倉孝保氏

小倉孝保氏

 また『踊る菩薩』について、「人物の背景にまで迫り、時代とリンクさせていくアプローチ方法はどうやって生まれたのですか?」という質問に小倉氏はこう語る。 「この本に関しては『時代』を特に意識しました。一条さゆりが生まれた時には日中戦争が起こり、デビューの年には東京タワーができて、長嶋茂雄がデビューした。引退した1972年には浅間山荘事件、沖縄返還があった。この人の人生は日本の歩みと一致していて、時代が生んだ人なのではないかと思った。日本の近代史と一条さんの人生を合わせて書いたら面白いんじゃないかと思ったんです」  その後、時代から取り残されていく一条さゆり。社会から取り残された人々の声を聴くのも、ノンフィクションの仕事のひとつだ。横田氏の『トランプ信者潜入一年』も、そのような人々の声をていねいに拾っていく。 「取り残されたと思い込んだ人々が、トランプの信者になったという側面はある。トランプのいる共和党は白人の白人による白人のための政党なんです。集会に行くと9割が白人です。白人の人口が2045年に半分を切ると言われているんです。その恐怖がトランプ支持に走らせたと言われている。日本人には、なかなかわからない感覚だと思います」  小倉氏に「今、日本でストリップ小屋は減っていると聞いていますが、実際どうなのですか?」と聞いてみると、 「昔、ストリップ小屋は300館ほどあったそうです。今は20館ほどしかない。だからストリップ小屋を渡り歩きながら生活するストリッパーはもういないと思います。そのかわり、小屋専属となって生活しているストリッパーが多いです。また昔と違って、客層が全然違います。今、お客の1割が女性です」
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時間をおいて取材すると、まったく違うものが見えてくる
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