窃盗症の女性が“謝罪と弁償”を被害店に申し出た結果…「優しさが逆に痛かった」
「あの当時は、逮捕されても『どうすれば見つからなかったんだろう』とそればかり考えていました。反省はなく、万引きをすることで少し落ち着く。そんな心境だったと思います」
そう語る女性の佇まいや口調は、生真面目さや聡明な印象さえ感じさせた。万引きによって精神的満足を得る――クレプトマニア。窃盗症と呼ばれる精神疾患に悩まされているとは、とても思えない。現在は、高橋悠の活動名でホームページやクレプトマニアの自助グループを運営設立し、病院やイベントでの講演なども行っている。
高橋氏がクレプトマニアになったきっかけは一言では表しにくい。性自認が男性/女性のいずれにも当てはまらないXジェンダーであることや、中学生時代から抱えている摂食障害の問題など、理由と呼べそうなものが複雑に絡み合っている。
「小さいころから白黒はっきりつけないと気が済まない性格で、目標を達成できるように努力を続けるタイプでした。両親とも仲がよく、特に欠陥のある家庭ではないと思うのですが、不思議と両親から認めてもらいたいといつも思っていました。これは、両親が私を認めてくれなかったのではなく、私が『褒められた』と感じ取れなかったんだと今では思います」
小学校時代をいわゆる優等生として過ごした高橋氏は、思ったことを率直に言い表す“切れ者”だった。だが進学先の中学校は人間関係が濃密で、忖度や妥協を覚えるとともに、徐々にそのストレスが身体を蝕んだ。
「周囲の同級生と価値観が合わず、けれども歩幅を合わせなければならないことが苦痛でした。恋愛やアイドルの話には興味が持てないし、部活で不真面目にやる子たちの気持ちも、私にはわかりませんでした。けれどもそれを露骨に指摘することもできず、結局、中学生のときに摂食障害になって入院することになりました」
「欠陥のある家庭」ではなかった
同級生と価値観が合わず、摂食障害に
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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