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“ユニクロの対極をいく”アパレル企業が、「創業から5年8ヶ月」で新規上場した納得の理由

 筆者(田中謙伍)はAmazon日本法人に新卒で入社後、現在はAmazonで商品を出品する企業へのコンサルティング業務を行う会社を経営している。  Amazonに在籍していた期間に副業として商品を出品し、3億円の売上を達成。現在はAmazon内でヒットする商品の成功要因を分析できる立場を活かし、日刊SPA!では「ヒットする商品の背景」について紹介している。  今回は、ZOZOの傘下企業でファッションブランド「9090(ナインティナインティ)」などを展開する株式会社yutori(ユトリ)について取り上げる。  おそらく、この会社名を知っている人はアパレル関係者以外ではそう多くないのではないだろうか。  実は、それこそがyutoriの成長要因なのである。
yutori

写真はInstagramより

「創業からわずか5年8ヶ月」で東証グロース市場に新規上場

 同社は、代表の片石貴展氏が2018年4月に設立し、国内最大級の古着コミュニティー「古着女子」で広く認知され、10代前半〜20代前半の若年層をターゲットにした事業展開を強みとしている。  そんな片石氏は当時20代でありながら、創業からわずか5年8ヶ月で、東証グロース市場に新規上場を果たした。また、アパレル企業としては最短でのIPO (新規株式公開)となるなど、小売業界では大きな話題となった。同社はなぜここまで早期に上場できたのか?  その理由は「不特定多数に売ることはせず、密度の濃い顧客に売ることに振り切ったから」だ。実は、この戦略はマーケティングの王道からは一見外れているように見えるものだ。

ユニクロと対極的なyutori

 消費者行動の研究結果がまとめられたバイロン・シャープ氏の著書『ブランディングの科学』(朝日新聞出版)内に書かれた「ダブルジョパディの法則」によれば、市場に十分に浸透していないブランドは購入頻度も低いとされている。  この「ダブルジョパディの法則」、和訳すると「二重の危険の法則」という意味である。ここで言うひとつめの危険とは、認知度が低いという危険、ふたつ目は購入頻度が落ちるという危険のことである。  言い換えれば、ブランドが市場に十分に浸透していれば、購入頻度が高くなるということだ。アパレルメーカーならばユニクロが真っ先にこの例として挙げられるだろう。  一方、yutoriは市場浸透度が低いにもかかわらず、一部の層に圧倒的に支持されるブランドを作り、業績を伸ばすことに成功している。これはいったいなぜか。
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「ひとつのブランドに依存しない形」を確立
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EC・D2Cコンサルタント、Amazon研究家、株式会社GROOVE CEO。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、新卒採用第1期生としてアマゾンジャパン合同会社に入社、出品サービス事業部にて2年間のトップセールス、同社大阪支社の立ち上げを経験。マーケティングマネージャーとしてAmazonスポンサープロダクト広告の立ち上げを経験。株式会社GROOVEおよび Amazon D2Cメーカーの株式会社AINEXTを創業。立ち上げ6年で2社合計年商50億円を達成。Youtubeチャンネル「たなけんのEC大学」を運営。紀州漆器(山家漆器店)など地方の伝統工芸の再生や、老舗刃物メーカー(貝印)のEC進出支援にも積極的に取り組む。幼少期からの鉄道好きの延長で月10日以上は日本全国を旅している

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