「ユニクロのセミオーダースーツ」を自腹で買ってみた
―[メンズファッションバイヤーMB]―
メンズファッションバイヤー&ブロガーのMBです。洋服の買いつけの傍ら、「男のおしゃれ」についても執筆しています。連載第64回目をよろしくお願いします。
ユニクロでセミオーダーサービスがスタートし話題となっています。「身幅」「着丈」「袖丈」が選べて、カラーバリエーションまで合わせれば全2112通りの組み合わせが可能に。値段はジャケット単体なら14900円(+税)とかなり格安なのですが、素材は百貨店の高級スーツなどでも見られる「Super110’sウール」を採用。ニュースサイトでも「紳士服業界に激震が走る!?」と報じられています。
……しかしユニクロとはいえ、何事もやってみなければわかりません。「セミオーダースーツやってます」と謳いながらもオーダー時のアドバイスがイマイチで、なんだか妙なスーツができあがっちゃった、なんて例も枚挙に暇がありません。ここはひとつ自腹で「ユニクロでセミオーダースーツ」をつくってみたので徹底報告&解説しちゃいます。
▼実はセミオーダーではなく「つくり置き」だった?
……まず、店舗にきて私は勘違いをしていたことに気づきました。
ユニクロのセミオーダーは「受注生産式」ではなく、「作り置きしてあるもののなかから選ぶ」という形式。少し説明しにくいのですが、セミオーダーは顧客の身幅着丈袖丈などを採寸しそれに合わせて生産する「受注生産式」が一般的です。しかし、ユニクロの場合は身幅・着丈のサイズを、レギュラーフィット32パターン、スリムフィット32パターンの全64パターンをすでに商品として作り置いてあります。そしてそれらのパターンから「袖丈」だけを最後に顧客採寸して合わせるという形式なのです。
厳密には「セミオーダー」というより、「サイズ展開の多い商品をお直ししている」と言えるでしょうか。いずれにせよ通常のセミオーダー形式と異なるためメリットデメリットが存在します。
まずメリットは納期がとにかく早いこと。発注からわずか7日間で届きます。何度もセミオーダー形式の服を購入したことがありますが、「発注から7日で届く」なんて聞いたこともありません。これが作り置きのメリットです。
逆にデメリットは「選べる自由度が少ない」という点。身幅と着丈で全64パターンあるので「一般的なニーズ」であれば十分対応できますが、例えば「極細で着丈を長くしたい」といった特殊な注文には対応できません。
もっとも私は「身体にあった綺麗な形のスーツがほしくて、ジャケット単体などで普段着としても着用したい」くらいのニーズですから極端な注文をするつもりもなく、結果このセミオーダー式で満足できました。
またセミオーダーできるのはあくまでジャケットだけ。スラックスは同素材の既製品を使います。このあたりも普通のセミオーダースーツとはちょっと異なります。
▼微細なバランス調整が可能で身体に合った形がつくれる
オーダーのフローとしては専門スタッフに採寸してもらい相談のうえサイズを決める形です。ベースとして「スリム」「レギュラー」と選べるのですが断然「スリム」がオススメです。もともとユニクロですから、「万人がストレスなく着用できるもの」というデザイン志向がベースとなっています。「細身で窮屈なものは嫌だ」と着心地重視ならともかく、「格好いいキレイなスーツがほしい」という見た目重視ならスリム一択です。
身幅と着丈を採寸してくれた店員があることに気がつきます。
「身幅44のサイズで着丈68cmがお好みのようなのですが……それだと既製品のSサイズになります」
そうなのです。実はユニクロのセミオーダージャケットは通常展開のジャケットに採寸直しを加えるものなので、S、M、Lで展開する既製品も存在します。私の場合なんと既製品のSサイズがピッタリ。これではセミオーダーの意味がない(笑)。
しかし既製品Sサイズを着用してみたところ圧倒的に袖丈が短いことに気づきます。これではちょっと……と、やはりセミオーダーで袖丈を「既製品より長く」してもらうことにしました。
⇒【画像】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1056590
「ユニクロでもサイズ落とせば細みでキレイに着れるんじゃね?」と思ったことがある人は多いと思います。しかし、サイズを落とすと、どうしても袖丈が短くなるんですね。これはジャケットだけでなく多くのユニクロ製品に言えることです。万人向けに余裕のある身幅などになっているぶん、サイズを落としたくなるのですが、サイズを落とすと袖が足りなくなるというジレンマが発生します。今回のセミオーダーではそれが解消できるわけです。
「たかが袖じゃないか」と思う人もいるかもしれませんが、袖の長さが「足りない」or「長すぎる」というのは「おしゃれ」において致命傷です。袖先やパンツの裾など、「先端」は視線が集まるポイント。袖の印象がジャケット全体の印象を変えてしまうくらい看過できない要素なのです。
実際にできた採寸表はこちら(「身幅44」とはセンチメートルのことではなく、イタリアサイズの「44」のことです)。
⇒【画像】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1059387
ちなみにスーツの袖は腕を下ろした際に、親指の先から袖先までが直線距離で9~12cmが理想と言われています。私の場合は普段着としてもこのジャケット活用したかったので少し長めで「9cm」で設定しました。「親指から9cm」くらいだとスーツとしてもカジュアルとしても使える最大公約数的な印象になるはずです。指針にしてみてください。
そして、採寸してもらったら、カードをもらって家でサイトからオーダー。ちょっと面倒なのですが、2月22日からはアプリをダンロードしていれば、お店で直接オーダーすることも可能になるそう。
▼欲を言えばスラックスが……
実際にできあがったスーツはこちら(写真参照)。
さすがにSuper110’sの極細糸で作ったウール素材。艶は高級スーツさながらです。これでジャケット単体14900円(+税)。かなりのコストパフォーマンスです。普通のブランドでつくれば2~3万はくだらないでしょう。ただし、気になったのはスラックスです。
ジャケットをセミオーダーでスリムシルエットにしたのに、スラックスは既製品。もちろん「スリム」と「レギュラー」の2タイプから選択できるのですが、スリムタイプのスラックスでも少しゆるめ。とくに裾幅がやや広く、もう少しキュッと裾が細くなったスリム型であれば文句ナシなのですが……。
気になる方は自分でお直し屋に持って行き、裾幅を少し細くすればOK。しかし、自分で直さなければいけないのなら、「お手軽感」はかなり薄くなります。ジャケットだけなら大満足なだけに非常に惜しいところ。
とはいえ、スラックスが5990円(+税)なので、上下トータルで2万0890円(+税)。この価格帯で買えるスーツのなかでは指折りであることにまちがいはありませんでした。気になる人はチェックしてみてください。
ちなみにメールマガジンでは本スーツをさらに細かく分析しています。カジュアル向けのコーディネートを組んだり、ほかブランドの格安セットアップとも比較しているので、興味ある方はこちらもぜひ。今年はセットアップをカジュアルで着用するスタイルもやや多め、参考にどうぞ。 <取材・文/MB>ファッションバイヤー。最新刊『MBの偏愛ブランド図鑑』のほか、『最速でおしゃれに見せる方法 <実践編>』『最速でおしゃれに見せる方法』『幸服論――人生は服で簡単に変えられる』など関連書籍が累計200万部を突破。ブログ「Knower Mag現役メンズバイヤーが伝えるオシャレになる方法」、ユーチューブ「MBチャンネル」も話題に。年間の被服費は1000万円超! (Twitterアカウント:@MBKnowerMag)『MBの偏愛ブランド図鑑』 今着るべきブランド60の歴史や特色を、自身が愛用する品とともに徹底紹介 |
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