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「新型コロナウイルス」市中感染拡大の裏に検査体制の不備が…

「以前とは状況が異なっている」  2月15日の記者会見で、こう漏らしたのは加藤勝信厚労相。これまで、新型コロナウイルスの感染に関して「国内で流行しているという疫学的な情報は集まっていない」と述べてきたにもかからず、突如、前言を翻したのだ。その理由は、「感染経路が判明していない事例」が次々と発生している点にある。 新型コロナウイルス

[新型コロナウイルス]はとっくにパンデミックだった!

 13日には国内初の死亡事例が発生。亡くなった80代の女性が、同じく感染が発覚した都内在住の男性タクシー運転手(70代)の義理の母だったことまではわかったものの、両者がどのように感染したのかが不明なのだ。同日には和歌山で医師の感染が発覚したが、同じく感染経路は不明。15日には、その医師が勤務する病院内でさらに3人の感染が明らかになった。  このほか、愛知、千葉、北海道などでも感染経路を追跡できない事例が出てきている。仮に、二次感染、三次感染と広がりを見せているのであれば、すでにパンデミック……。だが、感染拡大には“裏”があるという。内科医で医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏が話す。 「とっくに市中感染が起きていたんですよ。それが、ようやく明るみに出ただけです。きっかけは、2月11日に厚生労働省が『感染の疑いが強ければ、国の検査基準に該当しなくても自治体の判断で柔軟にウイルス検査をするよう』通知を出したこと。それまでは、『37.5℃以上の発熱と呼吸器症状を有し、中国湖北省への渡航歴、ないしは渡航歴のある人との接触歴がある』ことを検査基準としていました。  この基準を緩和したことで、検査を受けられる人が増え、隠れた感染者の実態が明らかになってきたのです。これからは何倍にも感染者は増えていくと考えたほうがいいでしょう。なにしろ、中国疾病対策センターは1月末に『12月中旬から、人から人への感染が起きていた』と発表していますから。日本政府が対策本部を設置したのが1月末なので、丸1か月以上も日本はヒトヒト感染の脅威に対して対策を取ってこなかったわけです」  無策であれば、感染拡大は当然のこと。典型例は、2月3日から横浜港に停泊しているクルーズ船「ダイヤモンド・プリセンス」での集団感染だ。政府は「水際作戦」と称して、乗客3000人の船内待機を決定。重症化リスクの高い高齢者の下船が始まったが、15日時点で検査が終了した2404人中、542人もの感染が明らかになっている。

2週間も拘束しているのは日本だけ

 こうした政府の対応は世界に波紋を広げている。『NYタイムズ』は「やってはいけない対応の見本」という専門家の意見を掲載。イスラエルが同国籍の乗客15人をただちに下船させるよう日本側に要請したほか、米国は日本政府の定める“拘束期限”を待たずして17日に米国籍の乗客らをチャーター機で帰国させることを決定した。元厚労省医系技官で医師の木村盛世氏は「当然の措置」と嘆息する。 「寄港を拒否している国々もありますが、イタリアでは感染を疑われる乗客がいながら、寄港したクルーズ船の乗員乗客7000人を12時間で下船させています。香港もクルーズ船の乗員乗客3600人の検疫を4日間で済ませて、下船を許可しました。  2週間も拘束しているのは、日本だけ。’09年に蔓延した新型インフルエンザの水際作戦では1人の感染者を見つけるために14倍もの感染者を見逃したのに、日本はその経験をまったく生かせず、かえって感染拡大を招いたわけです。  空路では『湖北省への渡航歴がない』と偽り、いくらでも入国できる状況にあることを考えると、クルーズ船だけを締め出すことには矛盾が生じます。今後、政府の責任が問われるでしょう」  実は、強硬にクルーズ船の乗客を足止めさせたのは、単に体裁を繕うためだった可能性もある。 「早々に下船させて感染が発覚したら、日本での感染者数にカウントされた可能性が高い。実際、官邸はWHO(世界保健機関)に対して、クルーズ船の感染者を日本でなく、『Other』に区分するよう働きかけ、2月6日から表記が変更されました。  面白いことに、その晩にWHOのテドロス事務局長は『新型コロナウイルス対策のために、1000万ドルも拠出してくれた日本に感謝する』とツイートしています。つまり、中国に次ぐ感染者数となり、国際的なイメージが低下することを恐れた官邸が、お金を積んで日本の感染者数を減らしてもらったようなものです」(全国紙政治部記者)
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なぜ政府の対応がこうも後手に回ったのか?
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