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オーバーツーリズムに悩む北海道美瑛町、観光名所“シラカバ並木”をすべて伐採。「農家の私有地」に侵入する旅行者も

 外国人観光客の増加に伴う、オーバーツーリズムが全国的に問題になっている昨今。“丘のまち”として有名な北海道美瑛町も例外ではなく、1月14日には地元の観光名所になっていた『シラカバ並木』がすべて伐採され、全国ニュースでも大きく取り上げられた。  伐採を行った地元住民団体は、白樺が成長しすぎたことで隣接する畑の農作物の生育に影響が出たことを理由に挙げたが、美瑛の主な観光名所は景観などの自然。  過去にCMなどに登場したことで名所化した『○○の木』と呼ばれるスポットは、基本的に“農家が所有する私有地”だ。優先すべきは自分の生活や仕事であり、観光客に配慮するにも限度があるだろう。
美瑛駅

美瑛駅

駅も町も美瑛はアジア系外国人だらけ

 2月某日、旭川から2両編成の富良野行き各駅列車に乗って美瑛へ向かったが、車内は通勤・通学の時間帯ではないのに混んでいる。首都圏や関西圏のラッシュ時ほどではないが、ローカル線でここまでの混雑ぶりは違和感を覚える。目算だが乗客の8割方は外国人。それもアジア系ばかりだ。  美瑛駅では彼らの半数近くが下車。駅を出ると、ロータリーや駅前通りには、人口9271人(※1月末時点)の町とは思えないほどの人の姿が。ただし、それが地元の方ではないのは一目でわかる。  これだけ外国人観光客がいるとゴミのポイ捨ても多そうだが、その懸念はいい意味で裏切られる。
四季の塔から見た美瑛町

四季の塔から見た美瑛町。周囲を一望できる

 駅から500mほど離れた美瑛町役場には、観光客に無料開放されている展望台『四季の塔』があり、歩いて移動。見学後にも周辺を散策してみたが、路上にゴミはまったく見当たらない。雪に埋もれている可能性は否定できないが、すごく清潔な町という印象を感じた。

立入禁止の看板があるのに無視して中に入る外国人女性が

『ケンとメリーの木』では、立入禁止の看板の前でポーズを取る外国人カップルが

立入禁止の看板の前でポーズを取る外国人カップル

 その後、筆者は町中心部を離れて郊外へ。まず向かったのは、1972年に自動車メーカーのCMに登場したことで名所となった『ケンとメリーの木』。  一帯には日本語と中国語、韓国語、英語の4か国語で書かれた立入禁止の看板が道路脇の至るところに設置されているが、なんとこれを無視して記念撮影のために雪の中に入っている女性に遭遇。
立入禁止の看板を無視し、中に入って堂々を記念撮影する者も

立入禁止の看板を無視し、中に入って堂々を記念撮影する者も

 すぐに戻ったとはいえ、これはれっきとしたルール違反。早くもオーバーツーリズムの現場を目の当たりにしたが、これが日常的に起きていると思うと地元の人間ではないがげんなりしてしまう。  次に向かった『セブンスターの木』も1976年にタバコのパッケージに採用されたことで一躍有名になった場所。  実は、シラカバ並木の跡もすぐ近くにあり、訪れた日は伐採から40日近く経っていたが、切り倒された木は現場に放置されたまま。残念な気持ちもあるが、土地を所有する農家にとっても苦渋の決断だったのだろう。  筆者は農家の友人・知人が多いが、彼らが住むのはいずれも美瑛のような観光地ではない。美瑛から数十キロ離れた空知管内で農業を営む50代の知人は「毎日、観光客が大勢押し寄せ、勝手に畑に入る者が後を絶たないなんて想像するだけでゾッとする。よく今まで我慢したと思う」と同情。  また、帯広のある十勝管内で農家をしている40代の友人も「落ち着いて農作業もできないはず。マナーを守らない観光客なんて作物を荒らすエゾジカやヒグマと変わらん!」と憤っていた。確かに、実害が及んでまで観光客ウェルカムの姿勢を貫くのは無理というものだ。
各国の言葉で書かれた立入禁止を示す看板

各国の言葉で書かれた立入禁止を示す看板

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道いっぱいに広がった観光客が車の通行の妨げに
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フリーライター。鉄道や飛行機をはじめ、旅モノ全般に広く精通。3度の世界一周経験を持ち、これまで訪問した国は50か国以上。現在は東京と北海道で二拠点生活を送る。

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