プロ棋士も「強くなりすぎ」と絶句 将棋電王戦FINAL出場ソフトが決定

将棋電王トーナメント

AWAKE開発者の巨瀬亮一氏には賞金250万円が贈られた

 最強将棋ソフトの称号「電王」をかけてコンピュータ将棋ソフト同士が戦う『第2回 将棋電王トーナメント』が11月1~3日に行われ、来春行われる『将棋電王戦FINAL』にて人間代表であるプロ棋士5人と対決する5つのソフトが決定した。最終結果は以下の通り。

第1位 AWAKE 開発:巨瀬亮一
第2位 Ponanza 開発:山本一成、下山晃
第3位 やねうら王 開発:磯崎元洋、岩本慎
第4位 Selene 開発:西海枝昌彦
第5位 Apery 開発:平岡拓也、杉田歩、山本修平

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 今回「電王」の称号を獲得したAWAKEは、ディフェンディング・チャンピオンである初代電王Ponanzaを逆転で下しての初優勝。開発者である巨瀬(こせ)亮一氏は、プロの養成機関である奨励会に在籍していた経験があり、プロ棋士を目指していた人間が、将棋ソフト開発でプロ棋士の前に立ちはだかるという構図になる。このあたりのドラマ性も含めて、これから大きな注目を浴びることは間違いないだろう。

 これに先立ち10月に開催された『電王戦タッグマッチ2014』では、『将棋電王戦FINAL』に出場するプロ棋士が、すでに発表されている。そのメンバーは、阿久津主税(ちから)八段、村山慈明(やすあき)七段、稲葉陽(あきら)七段、永瀬拓矢六段、斎藤慎太郎五段の5人。全員が30歳前後の指し盛りで、勝率が6割5部前後という基準で選ばれており、名人や竜王などのタイトルホルダーこそ選ばれていないが、これまでの電王戦のなかでは最強と言ってよいメンツだ。

 将棋ファン的な欲を言えば「最後なら、できればこのプロ棋士にも出てほしかった」というのもあるかもしれないが、「これで勝ち越せなかったら、もうタイトルホルダーでないとコンピュータには勝てない」という同意は十分に得られるメンバーである。もちろん勝ち越してくれるに越したことはないのだが。

 しかし今回の『第2回 将棋電王トーナメント』は、『将棋電王戦FINAL』に出場するプロ棋士にとって、暗雲たちこめる内容であった。とにかく全体的にレベルが上がっている。Ponanzaをはじめとする最上位のソフトが強いのはもちろんだが、この半年ほどの間、コンピュータ将棋にかなり大きな変革が起きていたようなのだ。

◆11月1日/予選リーグ

『第2回 将棋電王トーナメント』初日の予選リーグは、エントリーした全25ソフトから12ソフトが決勝トーナメントに進むスイス式トーナメントで対局が行われた。さすがに全25ソフトすべてがプロ棋士クラスの実力を持っているわけではなく、なかにはかろうじて動いているというレベルのソフトもあり、その「ファンシー」すぎる応酬が微笑ましい。このあたりは毎年行われているコンピュータ将棋選手権でもおなじみの光景である。

⇒【第24回世界コンピュータ将棋選手権レポート】対局前から激戦! 開発者は当日朝まで徹夜で突貫工事
http://nikkan-spa.jp/645103

 しかし上位陣には、この時点で異変が起きていた。電王Ponanzaは圧巻の全勝街道を突っ走っていたが、その下は大混戦で、コンピュータ将棋の現場を頻繁に取材している記者でもあまりなじみのないソフトが上位に食いこんでいた。

 たとえば予選10位で決勝に残った「nozomi」は、オープンソースで自由に使えるBonanzaライブラリをベースに、チェスの指し手探索用ソフト「Stockfish」を組みこむという、比較的カンタンな改造をしただけのソフトだという(※)。しかしこれが強い。

※もちろん誰にでも将棋ソフトが作れるというレベルのカンタンさではない。将棋ソフトは、一般的に将棋の局面を探索する「探索部」と、局面の評価を行う「評価部」の2つが根幹となる。また「評価部」は、事前に棋譜などを読みこませて機械学習を行い、その結果から得られた評価関数を元に評価値を算出する。

 今年3月の電王戦では、やねうら王にこのStockfishを入れてみたところ、ほとんど変わらないだろうという開発者の磯崎元洋氏の予想をはるかに超えて強くなってしまい、当事者間でのやりとりの齟齬もあって問題になったことが記憶に新しい。コンピュータ将棋においてBonanzaライブラリは定番なので、nozomiが決勝に残れたのは、このStockfishの導入が大きいと言えるだろう。

 ちなみにAWAKEもBonanzaベースでStockfishを導入していたが、予選リーグは7位で、それほどマークされていた存在ではなかった。しかし、コンピュータ同士のネット対局場である「floodgate」に最近出現し、並み居る強豪を抑えてトップになった「test」という名前のソフトの正体が、実はこのAWAKEだったと決勝トーナメントで判明。優勝候補と目されるようになっていた。

「ぼくはfloodgateの棋譜はPonanzaの対局を中心に見ています。ハマっちゃうとずーっと見てるみたいなタイプなんで(笑)。そこで見た手を参考にしてプロ棋士同士の対局でも試したりしています。最近の若手棋士はかなり見てるんじゃないですかね? ぼく以上にハマって見てる人もいますよ」(西尾明六段)

 そもそもAWAKEは、昨年の『第1回 将棋電王トーナメント』でもベスト8に残っており、動作が落ちるトラブルでの敗退がなければ、もっと上の目もあったソフトである。その意味では、もともと強かったとも言える。だが開発者の巨瀬亮一氏によれば、AWAKEは1年でレーティングが500も上がっているという。このレーティング500というのは、大雑把に言えば飛車1枚近い差がある。このレベルでそれだけの上乗せがあるというのは驚くべきことだ。

 そのくらい強くなっているのに、予選の段階で混戦ということは、ほかのソフトも強くなっているとしか考えられない。そしてその証拠として、過去のコンピュータ将棋選手権で強豪ソフトとして鳴らしていた「激指」や電王戦に連続出場していた「習甦」の苦戦が挙げられる。

 特に商用ソフト版も人気の激指は、今回が将棋電王トーナメントへの初参加ということで活躍を期待していた将棋ファンも多かったのだが、予選リーグを突破するのもギリギリであった。

 激指は今年のコンピュータ将棋選手権(予選1位、決勝5位)からの半年間で大きな改良を行っていなかったらしいが、その間、ほかのソフトの成長速度がいかに凄まじかったのかということになるのだろうか。

⇒【後編】将棋電王トーナメント決勝「本当にみんな強くなりすぎですよ」(遠山雄亮五段)
http://nikkan-spa.jp/743433

<取材・文・撮影/坂本寛>

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