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サンマルチノを超えられなかったモラレス――フミ斎藤のプロレス講座別冊 WWEヒストリー第10回

「フミ斎藤のプロレス講座別冊」WWEヒストリー第10回


 ペドロ・モラレスは、ニューヨーク・ニューヨークの観客に愛されたチャンピオンだった。

ペドロ・モラレス対ブルーノ・サンマルチノのWWWF選手権試合

本拠地マディソン・スクウェア・ガーデンではなく、シェイ・スタジアムで開催されたペドロ・モラレス対ブルーノ・サンマルチノのWWWF選手権試合。(AP通信社カメラマンが撮影し、ニュースとして世界じゅうに配信された有名な1カット)

 イワン・コロフからモラレスへWWWF世界ヘビー級王座が移動したマディソン・スクウェア・ガーデン定期戦(1971年2月8日)の興行収益は、同所のそれまでの記録を塗り替える8万6885ドル、当時の通貨レート1ドル=360円に換算すると3128万円という数字をはじき出した。

 モラレスにとってはガーデンにおける王座初防衛戦となった翌3月の定期戦(同3月15日=チャレンジャーはブラックジャック・マリガン)の興行収益は8万8865ドル(1ドル=360円で換算すると約3199万円)。

 モラレス&ゴリラ・モンスーン対ルーク・グラハム&ターザン・タイラーのタッグマッチがメインイベントにラインナップされた同年7月24日の定期戦の興行収益はついに10万ドルを大台を突破した。

 53歳の大ベテラン。“銀髪鬼”フレッド・ブラッシーがパシフィックコースト・ヘビー級王者としてロサンゼルスからニューヨークに乗り込んできてモラレスと闘った2度のタイトルマッチ(1971年11月15日と同12月6日)も観衆2万人、興行収益10万ドルをクリア。モラレスが出場する月例定期戦は、ガーデンのゲート記録を更新しつづけた。

 モラレスのファイトスタイルは、かつてのブルーノ・サンマルチノのそれを完全コピーするかのような様式にデザインされていた。

 すっかりヘビー級の体格になったモラレスは若手時代のトレードマークだったスタンディング・ドロップキックは使わず、もっぱらメガトン・パンチとサウスポー・スタイルのボディーブローだけで試合を組み立てるようになった。フィニッシュ技はトップロープからのヒップドロップだった。

 ガーデン定期戦でのモラレスは、ブルドッグ・ブラワー、“プロフェッサー”トール・タナカ、バロン・マイケル・シクルナ、パンピロ・フィルポ、ジョージ“ジ・アニマル”スティール、ザ・スポイラーといった典型的なヒールを相手につねに完勝モードで王座防衛をかさねていった。

 タイトルマッチの“1話完結”を好むプエルトリコ系のファンは、反則裁定やノーコンテストなどで試合が終わると、リング内にモノを投げ入れて怒りをあらわにした。

 モラレスの単純明快でわかりやすいプロレスはニューヨーカーには支持されたが、ボストン、ボルティモア、フィラデルフィア、ワシントンDCといった中都市エリアの観客にはなぜか不評だった。

マッチ・オブ・ザ・センチュリー

“マッチ・オブ・ザ・センチュリー(世紀の一戦)”としてプロデュースされた王者モラレス対挑戦者サンマルチノのタイトルマッチ。写真はニューヨークのタブロイド紙に掲載された新聞広告。

 サンマルチノのホームタウンのペンシルベニア州ピッツバーグはWWWF圏内の治外法権ゾーンに姿を変え、“無冠のチャンピオン”サンマルチノがハウスショーのメインイベンターの座をキープしつづけた。モラレスはピッツバーグのリングには上がらず、サンマルチノもガーデン定期戦には登場しなかった。この二重構造がやがて大きなひずみを生んでしまう。

 ビンス・マクマホン・シニアは1972年9月30日、“マッチ・オブ・ザ・センチュリー=世紀の対決”と題したモラレス対サンマルチノのタイトルマッチをプロデュースする。舞台はガーデンではなく、大リーグ球団ニューヨーク・メッツの本拠地シェイ・スタジアムだった。

 ベビーフェース対ベビーフェースの闘いは一種のタブーと考えられていたが、ビンス・シニアはあえてこの古いしきたりを冒した。どしゃ降りの雨のなかでおこなわれた“世紀の一戦”はシェイ・スタジアムに2万2508人の大観衆を動員し、75分のマラソン・マッチの末、ニューヨーク州条例のカーフュー(午後11時に興行終了)による時間切れドローでモラレスが王座防衛に成功した。

 しかし、皮肉なことにこの試合をターニング・ポイントにモラレスの観客動員力はいっきに下降線をたどる。それはひとつのドラマの終わりを意味していた。タイトル移動シーンはいささか唐突に、意外な場所で起きた。(つづく)

斎藤文彦

斎藤文彦

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

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