更新日:2023年08月18日 20:45
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「この子を連れて帰るなら、俺たち全員分のお金をお前が払えよ」――46歳のバツイチおじさんはアラブの荒くれ者に難癖をつけられた〈第24話〉

ドミトリーの二段ベッドに腰を下ろし一息つくとお腹がすいてきたので、ふらふらっと近くのお店に晩御飯を食べに出かけた。以前、この宿で沈没していた時、毎日通った行きつけの店だ。 宿から4~5分歩くと青いネオン看板のローカルなお店が見えてきた。席に座り、一食90円の魚すり身のおでんと薄味のスープに入ったソーメンを食べた。うまい。
「この子を連れて帰るなら、俺たち全員分のお金をお前が払えよ」――46歳のバツイチおじさんはアラブの荒くれ者に難癖をつけられた

バンコクの下町サトーンにある地元の住民が通うローカルなタイ料理屋

「この子を連れて帰るなら、俺たち全員分のお金をお前が払えよ」――46歳のバツイチおじさんはアラブの荒くれ者に難癖をつけられた

おでんのすり身とソーメンがはいったローカル料理。90円。名前はわからない

お金を払い宿に戻ろうと歩いてると、これまた年末年始5回ぐらい飲んだ家族経営の飲み屋の店長の兄ちゃんに会った。Annkaと偶然出会い、「一晩2500バーツ(6576円)でどう?」と誘われたあのお店だ。 兄ちゃん「おー! ゴトウ帰ってきたんだ。一緒に飲もう!」 この言葉がきっかけで一緒にビールを飲むことになった。「アジアの旅どうだった?」と聞かれたので、ホーチミンでゆみさんにフラれた話、プノンペンでエラにフラれた話、ついでにフィリピンの英語学校でアナベルにフラれた話を立て続けにした。兄ちゃんは、淡々と女にフラれた話をする俺の表情がツボらしく「ゴトー、最高~!」と爆笑した。 英語で笑いをとったという高揚感で俺もテンションが上がり、会話も弾んでいった。 兄ちゃん「ゴトー、隣でカラオケしよう」 二人で盛り上がったまま、隣の薄暗いスナックのようなお店に行った。中に入ると薄暗い部屋に田舎っぽい女の子がたくさんいる。お客さんは地元に住むタイ人がほとんどのようだ。どうやら兄ちゃんがこの店の支配人らしい。 俺「一番好きな曲歌ってよ」 兄ちゃん「日本の歌、知らないよ」 俺「タイの歌が聞きたい」 兄ちゃん「…イイけど…じゃあ、一緒に歌おうよ」 俺「イイよ。そっちの曲の途中から適当にハモるよ」 そうやって二人でステージに立ち、タイの歌謡曲を歌うことになった。俺はローマ字表記のタイ語と兄ちゃんから聞いたメロディを即興でモノマネし、雰囲気を出してハモると、お店の女の子やローカルなおっさん達が大盛り上がりした。 曲が終わり二人でハイタッチすると、すっかり気分が良くなった兄ちゃんがこんなことを言ってきた。 兄ちゃん「ゴトー、超楽しいよ。ありがとう! お礼にこの店にいる女の子、誰でも連れ帰っていいよ。値段は一晩100バーツ(316円)で構わないから」 えっ? 316円? 一晩女の子を抱くのに? 薄暗い店内を見回すと、10数人の少し垢抜けない女の子が笑顔で接客していた。 兄ちゃんはいつものように人が良さそうな顔でニコニコ笑っている。しかし、目の奥が笑ってるかまでは暗くて見えない。 兄ちゃん本当は怖い人? ゾクッと悪寒が走った。 俺は彼が急に怖くなり、この申し出を丁寧に断わった。兄ちゃんは「イイよイイよ」と優しく笑った。 その後、お会計をすると、兄ちゃん特別割引価格で135バーツ(360円)だった。 いや360円って……。カラオケボックスじゃないんだから……。 この金額、もしかすると本当に友情の証だったのもしれない。 俺は兄ちゃんにお礼を言うと、そのまま宿に戻った。長い移動で疲れていたからか、その夜はぐっすりと眠れた。
「この子を連れて帰るなら、俺たち全員分のお金をお前が払えよ」――46歳のバツイチおじさんはアラブの荒くれ者に難癖をつけられた

ローカルなカラオケ屋の店長の兄ちゃん。本当は怖い人かも……?

翌朝、ゆっくり起き、洗濯をし、ドミトリーの2段ベッドの一階でこの連載を書いた。 落ち着けてWi-Fi環境がいい宿にいる時が連載を書くチャンスだ。 集中して書いているとお腹が減ってきた。外に出るともう真っ暗になっていて、気づくと晩ごはんの時間になっていた。 俺は歩いて1キロほど先にある「アジアンパーク」に向かった。最近できたバンコクの人気スポットで、若者に人気の屋台街アミューズメントパークだ。ふらふらっと散歩し、写真を撮ったりした。アジアンパークの屋台でごはんを食べようとしたが、結構高い。 仕方ないので、ここで食べるのをあきらめ、外れにあるローカルな屋台に入り、空芯菜とグリーンカレーとLEOビールを頼んだ。超辛いグリーンカレーで出た大量の汗を拭きながら、ビールを流し込んでいると、隣の男女のグループの若い女性と目があった。 俺がにこりと笑うと、その女性が話しかけてきた。 雰囲気から中国人女性のようだ。
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女性「一人ですか?」
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1969年大分県生まれ。明治大学卒業後、IVSテレビ制作(株)のADとして日本テレビ「天才たけしの元気が出るテレビ!」の制作に参加。続いて「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)の立ち上げメンバーとなり、その後フリーのディレクターとして「ザ!世界仰天ニュース」(日本テレビ)「トリビアの泉」(フジテレビ)をチーフディレクターとして制作。2008年に映像制作会社「株式会社イマジネーション」を創設し、「マツケンサンバⅡ」のブレーン、「学べる!ニュースショー!」(テレビ朝日)「政治家と話そう」(Google)など数々の作品を手掛ける。離婚をきっかけにディレクターを休業し、世界一周に挑戦。その様子を「日刊SPA!」にて連載し人気を博した。現在は、映像制作だけでなく、YouTuber、ラジオ出演など、出演者としても多岐に渡り活動中。Youtubuチャンネル「Enjoy on the Earth 〜地球の遊び方〜」運営中
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