「この子を連れて帰るなら、俺たち全員分のお金をお前が払えよ」――46歳のバツイチおじさんはアラブの荒くれ者に難癖をつけられた〈第24話〉
結局、屋台街では何も食べないまま次の場所に移動となった。
その後、わずか2時間の間に屋台街、公園、ナイトマーケット、ディスコと彼女の行きたい場所をすべて回った。
キャンは写真さえ撮ってしまえば、もうその場所には興味がなくなるようだ。
1969年大分県生まれ。明治大学卒業後、IVSテレビ制作(株)のADとして日本テレビ「天才たけしの元気が出るテレビ!」の制作に参加。続いて「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)の立ち上げメンバーとなり、その後フリーのディレクターとして「ザ!世界仰天ニュース」(日本テレビ)「トリビアの泉」(フジテレビ)をチーフディレクターとして制作。2008年に映像制作会社「株式会社イマジネーション」を創設し、「マツケンサンバⅡ」のブレーン、「学べる!ニュースショー!」(テレビ朝日)「政治家と話そう」(Google)など数々の作品を手掛ける。離婚をきっかけにディレクターを休業し、世界一周に挑戦。その様子を「日刊SPA!」にて連載し人気を博した。現在は、映像制作だけでなく、YouTuber、ラジオ出演など、出演者としても多岐に渡り活動中。Youtubuチャンネル「Enjoy on the Earth 〜地球の遊び方〜」運営中
キャン 「ゴーゴーボーイズのお店に行きたい!」
俺 「ゲイがいっぱいいるお店だよ」
キャン 「一回、行ってみたいんだ」
俺 「……うん」
キャン 「ね? 行こ!」
キャンは場所もバッチリ調べていて、ソイにあるゲイストリートに向かった。
キャン 「ふふふふふふ。面白い~」
俺 「ここ、写真撮ったら怒られるかも」
キャン 「オッケー。気をつける」
二人で激しいゲイの客引きを追い払いながら、200メートルぐらいの小道を通り抜けた。
キャンは怯えながらも途中から大爆笑していた。
キャン 「戻って、お店に行こうよ」
俺 「行きたいの?」
キャン 「行きたい~」
二人で通り抜けた道を戻り、男の子たちがダンスするお店に入った。
いわゆる新宿二丁目にもあるような、ダンスをしながらお酒を飲むゴーゴーボーイズのお店だ。
ゲイ 「いえ~い!」
キャン 「ふふふふふふ(笑)」
ゲイ 「どこから来たの?」
キャン 「中国」
ゲイ 「そちらのお兄さんも中国?」
俺 「俺は日本です」
ゲイ 「中国人と日本人のカップルなんて珍しい~」
英語になってるだけでノリは日本のゲイバーのノリと全く変わらない。
「なぜ言葉は違うのに同じノリなのか」「ゲイの人のノリは万国共通なのか」という興味深いテーマが頭をよぎったが、今回の旅でこのテーマを追求するのはやめよう。
やがて、ゲイたちが強引にテキーラを進めてきた。
シェムリアップの夜の街に撃沈したテキーラだ。
どうやら酔わせようとしているらしい。
俺は必死に抵抗した。
俺 「無理無理無理無理無理無理」
ゲイ 「ダメダメダメダメダメダメダメ」
そう言うと彼ら(彼女ら?)は俺にテキーラを一気させ始めた。
盛り上がるゲイ軍団。
それを見て笑うキャン。
やがて魔の手はキャンのほうにも回った。
「中国人の子、一気~」
キャンは楽しそうにテキーラを一気をしていた。お酒も強そうだ。
1時間ほど盛り上がったところで、キャンがこう言ってきた。
キャン 「そろそろ遅いし帰らない?」
俺 「うん。俺、結構酔ったかも」
キャン 「ふふふふふ~。私も」
俺 「すみまーせーん。お会計お願いします」
キャン 「もう済ませたわ」
俺 「え? いくらだった?」
キャン 「いいのいいの、おごるわ。出会った時、奢ってくれたし」
俺 「えっ、ダメだよ」
お金を払おうとするが受け取ろうとしない。
キャン「じゃあ、帰りのトゥクトゥク代を払って。ね?」
そう言って強引に納得させられた。
トゥクトゥクに乗り、ホテルまで送っていると、キャンはスマホを見ながらケラケラ笑い出した。
俺 「どうしたの?」
キャン 「良い動画が撮れたわ~。あなたがゲイに一気させられてる~」
俺 「え? 撮影してたの? 撮影禁止なはずなのに。よくバレなかったね」
キャン 「ふふふふふふふ~」
トゥクトゥクの車内で夜風を浴びながら、隣に座っている彼女の横顔を見た。
目まぐるしく移り変わるライトに照らされた彼女は、クリストファー・ドイルの映像の中に出てくる登場人物のようにどこか幻想的だった。
そして俺はまた、「恋する惑星」の冒頭のシーンを思い出した。
「その時、彼女との距離は0.1ミリ。57時間後、僕は彼女に恋をした」
思えば、ローカルな屋台で荒くれ者からなんとか助けだし、トゥクトゥクで一緒に帰ったところから二人の関係は始まった。そして、まもなく出会ってから24時間が経とうとしている。
「その時、彼女との距離は0.1ミリ。24時間後、僕は彼女に恋をしなかった」
恋をするには十分すぎるほどの出会いから始まった2人なのに、
なぜか俺の胸は高鳴らなかった。
文化の違いか? 貧乏旅行とセレブ旅行という格差が原因か?
それとも、恋愛をするのに臆病になっているのか?
どれも当たっているような気もするし、まるで関係ないような気もする。
でも、きっと彼女も同じ思いだったのだろう。
キャン 「私、明日には中国の家に戻るの。楽しかったわ。ありがとう。ふふふふふ~」
彼女と別れてからも、チャーミングで好奇心たっぷりな「ふふふふふ~」という彼女の笑顔がしばらく頭にこびりついて、しばらく離れなかった。
そして俺は、同じく笑顔がチャーミングな黒人オーナーのゲストハウスに戻り、死んだように眠り続けた。
※次号予告「バツイチおじさんの恋する惑星はどこに!? 東南アジアを離れ目指した場所とは!?」を乞うご期待!
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