更新日:2017年11月16日 20:55
お金

これは上場を人質にとった脅迫――連続投資小説「おかねのかみさま」

同日 21:00 アリファンカンパニー 社員A「社長…」 「…」 「…」 「…」 「とりあえず、その内容証明の中身をみせてくれる?」 「はい。かなり長いんですが、アリンコのキャラクターに関する著作権の主張をしている部分と、同様の内容証明郵便を複数の関係先に送付している旨が書いてあります。そしてその著作権の対価として…」 「ゴクリ…」 「3億円と…」 「は?」 「3億円と…書いてあります…」 「馬鹿じゃないのあいつ。アリンコのイラストに3億払うわけないじゃん」 「はい…もちろん普通はそうなんですが…もし、もし万が一当社の上場がこの騒動で延期になった場合には、売り出し価格から想定して資金調達分だけでも8億円の損失が予想されます。当社の売り出し分だけで8億円ですから直近にご出資いただいた各社の投資分の損失も含めると…」 「いくら…?」 「一度ケチがついた会社が再び上場できるまでにはどれくらいかかるかわかりませんから…被害総額はなんとも…」 「クハー」 「そのキャラクターは本当にその方が描いたものですか?」 「まぁ、アリンコですから、描いたっちゃぁ描いたんですけど、いまのキャラクターとは似ても似つかない手描きのものでした」 「でも描いたことは描いたと」 「…はい……。」 「ビミョウネ」 「社長…どうしましょう。払う払わないは別として、揉め事が存在するということは関係先すべてに知られている状態です。説明を続けながら上場を目指すのか、一気に金を払って解決してなにもなかったことにするのか…」 「会うよ。会って話す」 「!!!」 「会って話せばアイツもわかるだろ。これは上場を人質にとった脅迫だ。証券会社や監査法人と会う前にアイツと会って、しっかり話す」 「ですが社長…彼の居場所はいま誰も知らなくて…」 「………」 「ゲンキダシテ…」 「かみさま、どうしたもんでしょうかね」 「悪質な強請りですね。まぁこうなった以上、コンタクトをとったほうがいいでしょう」 「でもどうやって…」 「メールなり、電話なり」 ジリリリリーん! 「はい、アリファンカンパニーでございます。はい。はい。少々お待ち下さい社長、株主の沼貝さんからお電話です…」 「沼貝さんにも伝わってるの?」 「…はい…」 「もしもしお電話かわりました杉浦です」 「杉ちゃんこんにちは!今回のことは僕が間に立ちますから!どんどん進めてまいりましょう!ひとまず、彼の居場所は見つけてあります。帝国ホテルにいるようですから、直接会いに行ってきますね」 「へ?」 「大丈夫。よくあることです。警察にも届けてありますので安心して待っててください」 「は、はい。すいません。えーと、すごい」 「杉ちゃんは上場するの初めてだから緊張しちゃうかもしれないけど、こういう輩は掃いて捨てるほどいますから。その度に警察の監視リストに追加されてくだけです。当事者同士だとまとまらない話になるでしょうから、また報告しますね」 「すみません…おねがいします…」 ガチャリンコ。 「なんておっしゃってました?」 「任せて大丈夫だって。さすがだ…」 「ウェーイ!!!」 次号へつづく 【大川弘一(おおかわ・こういち)】 1970年、埼玉県生まれ。経営コンサルタント、ポーカープレイヤー。株式会社まぐまぐ創業者。慶応義塾大学商学部を中退後、酒販コンサルチェーンKLCで学び95年に独立。97年に株式会社まぐまぐを設立後、メールマガジンの配信事業を行う。99年に設立した子会社は日本最短記録(364日)で上場したが、その後10年間あらゆる地雷を踏んづける。 Twitterアカウント https://twitter.com/daiokawa 2011年創刊メルマガ《頻繁》 http://www.mag2.com/m/0001289496.html 「大井戸塾」 http://hilltop.academy/ 井戸実氏とともに運営している起業塾 〈イラスト/松原ひろみ〉
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