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日大アメフト事件で振り返る、世界の悪質プレー。 本場NFLでも…

 連日メディアを騒がしている、日大アメフト部ファール問題。前代未聞の悪質さに、日本大学と内田監督の稚拙な対応が加わり、選手が記者会見を開く事態にまで発展した。自由な意見が飛び交うネット上では、日大側関係者のアメフト界追放を願う声まで。  世界中で物議を醸しているこの事件は、いかに酷いものなのか。かつてスポーツ界を震撼させたビッグスキャンダルを振り返ってみた。 悪質プレー

マイク・タイソンが起した耳噛み切り事件

 1997年のWBA世界ヘビー級タイトルマッチ12回戦、挑戦者マイク・タイソン(当時30歳)が、王者イベンダー・ホリフィールド(当時34歳)の耳に文字通り噛み付いた。まず右耳を食いちぎり、ドクターチェック後の試合再開で左耳も。結果、「相手に傷害を及ぼすおそれのあるすべての非スポーツマン的なトリックおよび行為」により、タイソンの失格負け。裁定に不満の彼は暴走し、試合後も相手陣営やスタッフに暴行を。ラスベガス市警30人がリングに上がって、ようやく事態収拾となった。  世界5億人以上がテレビ観戦したというビッグマッチで、見事にやらかしたタイソン。婦女暴行による服役を経て、ルール無視のファイティングスタイル、1年間のライセンス停止……。彼のイメージは地に落ち、ヒール役から本物の悪者になってしまった。以降、勝利らしい勝利を飾ることのないまま、’05年に無名選手と対戦し、TKO負け。試合後のインタビューで「もうこれ以上、ボクシングを侮辱したくない」と引退を示唆。正式発表こそなかったが、翌年からリングに立つことはなかった。  モハメド・アリに並ぶ最強ボクサーとされながら、キャリア晩年を汚してしまったマイク・タイソンだが、現在では擁護する向きも強い。特に耳噛み事件は、先にチャンピオンが禁じ手のバッティング(頭突き)を繰り返しており、それによってタイソンは流血までしていた。チャンピオンの反則が正しくジャッジされていれば、彼はあんな暴挙に出なかったことだろう。無防備な相手選手へのレイトタックルよりは遥かに理解もできる。

サッカー界のスーパースター・ジダンが試合中に頭突き!

 サッカー界のスーパースターであり、現レアル・マドリード監督のジネディーヌ・ジダンも、歴史的ファールを犯している。2006FIFAワールドカップ決勝、イタリアVSフランスでのこと。スコア1-1の延長戦後半5分、ボールとは関係ない位置で、イタリア代表のDFであるマルコ・マテラッツィが倒れ込んだ。原因はジダンによる頭突き。主審と副審は気づかず、第4の審判が指摘したのだが、カメラも2人の動きを捉えていた。ジダンが自分の頭をマテラッツィの胸に突き刺す映像が、スローモーションで全世界に何度も流れた。このプレーにより、ジダンはレッドカードを受け退場。司令塔を失ったフランスはPK戦の末、敗退する。  ジダンは今大会で現役から退くことを表明しており、ラストゲームが退場処分という悲しい結末に。FIFA最優秀選手、バロンドールといった個人タイトルはもちろん、W杯や欧州選手権、チャンピオンズリーグなどのチームタイトルもほぼ全て手に入れた名選手が、なぜ大事な試合で一発アウトの行為に及んだのか。試合直後から様々な分析がなされ、マテラッツィの挑発、人種差別発言が疑われた。ジダンの代理人はマテラッツィの「非常に深刻な発言」がキッカケだと発表。  決勝戦から2日後、マテラッツィはジダンへの罵りを認めるが、人種差別や家族に対する侮辱は否定。むしろ、ユニフォームを掴んでディフェンスするプレーに対し、「ユニフォームが欲しいなら試合後にやるよ」と言われたのが発端だと主張した。翌日、「あの試合を見ていたすべての子どもたちに謝りたい」とジダンが発言。マテラッツィの弁明、ユニフォーム云々のくだりもほぼ認めた。ただ、「私の大切な女性たち、母と姉を深く傷つける侮蔑」を繰り返されたため、我慢できなかったとも。  一連の騒動のペナルティとして、FIFAはジダンに罰金と出場停止3試合を科した。しかし、引退しているため、本人の申し出により、3日間の社会奉仕活動に振り替えられている。一方の当事者、マテラッツィにも罰金と出場停止2試合が命じられた。明らかなルール違反を犯した側だけでなく、挑発した側も罰する決定は非常に珍しく、今も議論のタネとなっている。  決勝戦から1年後、ジダンを激昂させたのは「お前の姉さんより娼婦の方がマシ」との言葉だとマテラッツィが明かした。日本語だとピンとこないかも知れないが、海外では「お前の母ちゃんデベソ」を遥かに凌駕する悪意に満ちたセンテンスである。世界一のMFは家族をしつこく侮辱する相手に振り返り、面と向かってから手と足に頼らず報復した。決して許される行為ではないが、同情できる部分も大きいはず。  世界的ニュースとなった、タイソンとジダンの意図的なファールを持ってしても、業界からの追放処分には至っていない。スポーツ界で追放されるレベルのルール違反は、八百長やドーピング関連がほとんど。道を絶ってしまうような処罰は、プレー中の行為ではまず下されないのだ。
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FCバルセロナ所属のスアレスも噛みつき癖が…
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編集プロダクション勤務を経て、2002年にフリーランスとして独立。GETON!(学習研究社)、ストリートJACK(KK ベストセラーズ)、スマート(宝島社)、411、GOOUT、THE DAY(すべて三栄書房)など、ファッション誌を中心に活動する。また、紙媒体だけでなくOCEANSウェブやDiyer(s)をはじめとするWEBマガジンも担当。その他、ペットや美容、グルメ、スポーツ、カルチャーといった多ジャンルに携わり、メディア問わず寄稿している。

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