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「性犯罪者にGPSをつけろ」論の間違い。厳罰化だけでは防げない

岡山の容疑者は刑務所で“治療”を受けたのに

 実は性犯罪者への治療は、刑務所でも「性犯罪者処遇プログラム」として行われている。2004年の奈良女児殺害事件をきっかけに導入され、法務省では今年度からプログラムを実施する刑務所を増やす方針だ。  だが、岡山県で少女への暴行を繰り返した容疑者(服役中)は、過去の懲役で「性犯罪者処遇プログラム」を受講したのに、出所後また性犯罪を犯している。福井氏も、このプログラムの効果については懐疑的だ。 小学生「治療はリスクのある日常環境でやらないと意味がないんです。  たとえば、少女と出会える時間帯になると出かけてしまう。あるいは児童ポルノを見てしまう。そうした行動の後に、どうストップをかけるのか? 客観的に分析して、次の行動に移らないために一緒に考えて、フィードバックしていくことに意味がある。  ところが、刑務所の中には少女がいないので、実際に行動を抑える訓練ができない。淡々と模範囚として受講するだけで終わってしまうのです」  法務省の性犯罪者処遇プログラムが参考にしたのは、カナダの取り組みだという。カナダには早期釈放制度があって、仮釈放のずっと早い段階に出てきて、その間に治療を受けるように義務づけている。 「日本でも、一部執行猶予の制度を適用して治療するのは可能だと思います。しかし、受け入れ先が少ないので、執行猶予にしても、どこで治療するの?となってしまう」

「性障害者を税金で治療」は、世論に猛反対される

 抑えられない衝動に苦しんでる人がいても、現在、こうした治療は健康保険がきかず、自費診療となる。福井氏のセンターでは「認知行動療法が月2万5000円で、薬が量にもよりますが月5000円くらい」だそうで、しかも、治療ができる病院はわずかしかないのだ。  では、なぜ厚労省が保険対象としないのか? できないのか? それは、「最終的には国民の理解」だと福井氏は言う。 「『被害者がかわいそうだ』という世論が強いのは当然です。が、それが『性犯罪者は自分たちとは違う“変質者”で、刑務所に閉じ込めておけ、という感情論になってしまう。彼らをケアしようという発想にはまるで向いていない。  保険を適用するというのは税金を投入することなので、猛烈な反対を浴びるでしょうね防犯カメラ 以前、福井氏が国会中に自民党会館に招かれて講演をしたときのこと。「被害者の支援も大事だが、加害者治療をしないと再犯は止まらない」という話をしたところ、自民党の松島みどり議員が「今日はいい話を聞きました。将来、政策にいかします」と口にしたそう。  ところが翌年、法務大臣になった松島議員は、性犯罪の厳罰化をする刑法改正を行っただけだった。
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性障害者が犯罪に走らない社会とは?
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