更新日:2018年08月28日 14:50
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SNSで”忙しいアピール”をするおっさんと、金魚の墓場――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第5話>

業務中でもお構いなしに投稿される「俺忙しいアピール」

 そこには間違いなくオオシタがアイコンになった姿があった。オオシタは僕と同じくおっさんなのだけど、加工したのか妙に若々しい姿がアイコンとなっていた。散歩がわりに筋トレ、水がわりにプロテイン、そんな爽やかな笑顔がそこにあった。 「今日も激務、激務、そろそろ過労死するかも 笑」  そんな言葉が躍っていた。日付は昨日の投稿だが、オオシタは暇すぎて7回くらい喫煙所に行っていたはずだ。死にそうなレベルの激務だとは到底思えない。 「それ見ていると心配になってきてさ。どうなってんだよ、お前の部署の業務管理」  同僚はそう言っていた。 なんとかこれは間違いかもしれないと納得させたが、いったいどういうことだと謎だけが残る埋葬となってしまった。  その日から、オオシタのSNSを監視することにした。何かあっては大変だからだ。もし彼が本当に激務に巻き込まれているなら、なんとかしなければならないからだ。精神的にまいっているなら、そういった機関に繋がなければならないからだ。  オオシタはずいぶんとSNSにご執心の様子で、仕事中でもバンバンと投稿していた。どうも時間的に喫煙所に行った時に投稿している感じで、彼が席を外してしばらくしたらSNSを閲覧してみればいいという攻略法に行きついた。  オオシタが、なんか経理の人に怒られていた。給料と税金の関係で提出すべき大切な書類があったのだが、それを出していなかったらしい。  むちゃくちゃねっとりと怒られていた。ダメなやつだ。この部署で出していないのはオオシタと僕だけだった。その後、すぐにオオシタが喫煙所に行ったのでSNSをチェックする。 「今日も書類仕事が舞い込んできました。そもそも書類仕事とは業務を円滑に進めるためのもの。その書類のことで業務が停滞するのはいかがなものか? とにかく本来の業務に支障が出るから書類仕事は減らしてほしいなあ。それでも舞い込んでくるんだろうなあ。なんか僕だけ書類多くないですか? 笑」  この調子である。言っていることはある程度理解できるが、それは提出してないやつが言うセリフではない。あんな簡単な書類を提出しないなんてゴミだ。  ある日のことだった。あまりにも暇だったので、僕はぼーっとソリティアをして過ごしていた。ふと通りがかるとオオシタはマインスイーパーに興じていた。それからしばらくして彼のSNSを見る。 「今日はコンピューターと格闘。畑違いだけどなんとかプログラミングをこなすことができた。早速プログラム中に隠れていた爆弾を発見しましたよ。こういう仕事まで俺に集中してくるのはいかがなものか、と思うけどやっちゃう自分も悪いんだろうなあ。あ、今日も終電帰りです。ええ、過労死寸前ですとも 笑」  である。これは“爆弾を発見”のところだけ正しい。  ある日のことだった。オオシタが免許証の更新を忘れていて、急遽、有休を取得して更新に行った日などはこうだった。 「お役所と急遽設定されたMTG(※)、なかなか発展的な話が聞けた。2時間みっちり話し合ったかな。これから3年のプロジェクトの幕開けである。また忙しくなりそう 笑」(※オオシタはよくミーティングの意味で使う)  2時間って普通の更新じゃなくて違反者講習受けているじゃないか。お役所って免許センターか。3年のプロジェクトって新しい免許有効期限だろ。  一事が万事この調子で、オオシタはなぜか「有能な自分」のアピールに余念がなく、現実をかなり過度に彩った自分を投稿していた。その彩り方が「忙しい」なのである。実は、こういうおっさんは昔から多い。  こう言ってしまうと偏見になるかもしれないが、若い女性は綺麗なネイルや雰囲気の良いレストランでの食事、見栄えの良い何か、インスタ映え、もちろんそれだけじゃないがそういったものでSNSを装飾する傾向にある。  これが若い男になると、自慢のコレクション、趣味、ハンパない濃い仲間、バーベキュー、エグザイルみたいなサングラス、そういったものがアピールポイントになりえる。  しかしながら、おっさんには何もないのだ。そう、何もない。おっさんが濃い仲間をアピールしたところで、仲間も濃いおっさんなのである。これではSNS映えしない。  そういったおっさんが行きつく先は「過度の忙しさアピール」なのだ。  この年代は「忙しい=有能」という価値観が確かにある。オオシタはその価値観に従ってSNSでアピールをしていたのである。
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オオシタが目の敵にする、”ダッカルビ”なる存在とは
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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