「それでは次はわたくしめが」 　別のおっさんが話し出す。どうやら、そういう風俗体験を報告しあう会らしい。なにこれ、楽しそう。参加したい。 「いよ、まってました！」 「決めてくれよ、三橋さん！」 　どうも他のメンツの反応を聞くに、三橋さんはかなり期待が持てる人物らしい。何を決めるのか分からないが、「決めてくれ！」とオーディエンスの期待も高い。 「いやね、オプションってございますでしょ、オプション。その日もボケーっとデリヘルのホームページを眺めていて、急に“聖水”のオプションをつけたいなーって思ったんです。ご存知ですか？　聖水？」 　すぐに合いの手が入る。 「しょんべん！」 「おしっこ！」 「ご名答！」 　なんだ、この会話は。どうやらデリヘルにおいて女の子がおしっこするところを見せてもらう「聖水」オプションにまつわる話らしい。 「そのオプションが3000円と高額でしてね、でも、かわいい子のおしっこ見たいじゃないですか。見たいでしょ？　でね、どうしても我慢できなくなっちゃってデリヘルに電話したんです。聖水オプション行ける子でお願いって言ったら、なかなか頼まれないんでしょうね、最初は店側も戸惑っていたんですけど、なんとか女のコが来ることになったんです」 「おお」 「ついに」 「おしっこ！」 　おしっこ！　とだけ叫ぶ場面なんて幼少期を除いたらそうそうあるもんじゃありませんよ。 それにしても三橋さんおしっこに対する情熱がすごい。おしっこをしたいあまりに、満月を見た孫悟空みたいになっている。さあ、三橋さんの話の続きを聞こう。 「やってきた女のコがゴリゴリのギャルでしてね、もう大興奮ですよ。急いでプレイ代に追加して3000円の聖水代を払ったんですけど、ギャルの様子がおかしい。とにかくおかしい。いまいち釈然としない。そこで問い詰めたんですよ。そしたら、出る前に事務所でおしっこしてきたとか言い出しやがる」 「プロ意識のかけらもない。これだからギャルはいやなんだ」 「三橋さんはギャル好きだから。でもそれが裏目に……」 「おしっこ！」 　そうか、三橋さんはギャルが好きなのか。だから大興奮したのかと妙に納得していると、三橋さんの体験談が佳境に差し掛かる。 「おしっこ出ないとギャルは言う。でも、オプション代3000円は欲しいという。そこでギャルが提案してきたんです。聖水オプションって私がおしっこ見せるとはどこにも書いてなくない？　って言い出すんですよ。おじさんのおしっこみるでよくね？　って言い出すんですよ」 「ありゃりゃ」 「こまったねえ」 「おしっこ！」 　さっきから「おしっこ！」だけ言っているの声からして徳永さんだろ。 「何が“あえて”なのか分からないけど、3000円も払ったし仕方ないかあって、おしっこ、見てもらったわけですよ。金払っておしっこ見てもらったんですよ。3000円払って見てもらったの。人生で一番高いおしっこ。最初は何やってるんだろっておもったんですけど、気づいたらこれも悪くないなあって。ギャルがすごく険しい顔で見てくるんですよ。『出てる、出てる』とかいうわけ。それ、けっこう悪くないなあって」 「三橋さんギャル好きだから」 「それでも3000円の価値はないだろ。三橋さんのおしっこだぞ」 「おしっこ！」 　おしっこでとんでもない盛り上がりを見せる中、ついに真打である横瀬さんが登場する。その前にテンガを押し売りされるエピソードを披露した竹橋さんもいたけど、つまらなかったのでカットする。 　つまらない竹橋の次は真打横瀬の登場だ。もう僕もこの報告会に参加してるつもりになっていて、勝手に胸をバチバチに焦がしている。 　横瀬さんの話が始まった。 「わたくし、人妻店しか行かないわけですが、ふと思ったんです。この子たちは本当に人妻なんだろうか、ってね。単に年齢が高い子を人妻店に押し込んでるんじゃないかって。まあ、人妻店なんて嘘ばかりですしね」 「うんうん」 「確かに」 　真打である横瀬さんはゆっくりと、オーディエンスの反応を確かめながら静かに話し始める。政治家の演説のような貫録めいたものを感じるほどだった。演説の掴みとしては上々だ。 「そして、昼に出勤してるコと夜に出勤しているコと全然別世界ということはご理解いただけると思います。昼しか呼べない人は夜の子は未知ですし、夜しか呼べない人はその逆です」 「俺は夜だからな、昼のコは未知だわ」 「通しで出ている子とかいるけど、基本的には別世界だわな」 「サッカーで後半になってガラリと布陣を変えてくるみたいに、昼と夜で全く異なる店もあるからな」 　なんで急にサッカーに例えたのか全然分からないけど、かまわず横瀬さんの演説は続く。