更新日:2018年09月18日 17:50
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恐妻家気取りという、回りくどいノロケに迫り来る“ハチャメチャ”――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第9話>

フィーバーの裏で、呼び出しをひたすら無視する山本さん

いよいよ開店した。僕は一目散にサンダーVへと向かい、三連Vを求めた。山本さんは別の台へと向かった。たぶんCR大工の源さんだ。 その日はけっこう好調で、モーニングもとったし、何度か連チャンしていけそうな感じだった。けれども、しばらくして異変が起こった。 「〇〇町からお越しの山本さま、お電話です。カウンターまでお越しください」 そう店内放送が入った。 最近ではあまり見ないが、こうやってパチンコ屋で呼び出しがかかることは当時としてはけっこう普通だった。携帯電話もあまり普及しておらず、パチンコ屋も地域に根差していた。どうせ近所のあの店にいるだろう、と電話をかければだいたい捕まったものなのだ。 「山本さんの奥さんだな」 明らかに山本さんが呼び出されていたので、怒り狂った奥さんが呼び出しているであろうことは容易に想像できた。そして、いつものパターン的に山本さんはこの呼び出しを無視する、そこまで読めたのだ。 「324番台、フィーバースタートしました! おめでとうございます!」 これまた最近のパチンコ屋ではやらなくなったが、当時は大当たりを引くと店員がマイクパフォーマンスでアナウンスしてくれることが多かった。店内の雰囲気にも活気が出るし、打っている人も良い気分になれるサービスだったように思う。 その日は、324番台が至極好調だったようで、何度も何度も当たりを引いているらしく、その度にアナウンスされていた。 「324番台、またまたフィーバースタート、おめでとうございますっ!」 店員のマイクパフォーマンスにも力が入る。それに続いて店内放送が入る。 「〇〇町からお越しの山本さま、お電話です。至急カウンターまでお越しください」 どうやら山本さんの奥さん、何度もかけてきているようだ。普通なら数回で諦めるが、今日は特別な何かがあるのだろうか、何度も呼び出しがかかった。そして、324番台の連チャンも止まらないらしく、そのアナウンスが交互になされることになり、合いの手のように入るのでまるで祭囃子のように聴こえたくらいだった。 「324番台フィーバースタート!」 「〇〇町の山本さま、奥様からお電話です。カウンターまでお越しください」 「またまた324番台、フィーバースタート!」 「〇〇町の山本さま、カウンターまでお越しください」 「出ました!324番台、大連チャン、フィーバースタート!」 「山本さま、奥様が急用とのことです」 もう最後の方は呼び出す人もちょっとキレ気味だった。 それからしばらくして、324番台の連チャンが終わり、山本さんの奥さんも諦めたのか、両方の放送がなくなり、少しだけ静かになった。かと思ったら、山本さんが血相を変えてサンダーVのシマにやってきた。 「助けてくれ!」 山本さんはそう言った。
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「ハチャメチャが押し寄せてくる」
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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