総合プロデュースを担当した鈴木セリーナ氏
“ケツ”と“うんこ”は子どもにとってキラーワード
「意思疎通が取りやすい友人のなかでも、ズバ抜けて言葉のチョイスに秀でるあべこうじさんとともに詩を書き、振り付けや作曲はプロ中のプロにお願いしました」
その結果、いち早く楽曲をチェックしたサポーターからのウケが悪かったことは前述のとおり。批判される筆頭ポイントが、「ケツ」と「うんこ」といった下品ワードである。
「
大人にとって拒否感が強い“うんこ”は、子どもたちが喜び笑う普遍的なキラーワード。あべさんには必ず入れてくれと頼みました」
制作サイドでもギリギリまで揉めたが、全編がケツとうんこではないし、新たなサポーターを生むためなら必要だろうとGOサイン。
「ご批判はごもっとも。私も親ですし、子どもにすすんで言わせたいワードではありません。でも、子どもに反応してもらうのに、間違いない言葉なんです」
しかしなぜ、抵抗が予想される言葉を使ってまで子ども向けにしたのか。
「
大分トリニータのサポーターは50代が中心。10年後、20年後のため、この先、長いスパンでみたらキッズ人気を取り込まないと。どんな形であれ知ってもらい、クラブに興味を持たせるのが重要です」
理屈はわかるが、安直過ぎる気も……。
「入れる必要はなかったと言われるのもわかります。確かにその通りかもしれませんが、“うんこ”があったからこそ目につき、話題になったのだと思います。ただ、子どもウケを狙ったのは歌詞だけではなく……。
幼い子でも歌えるとされる音階だけで構成しているんですよ。そこも見ていただければ」
また、「ネコニータ」や「クマニータ」など、意味のないダジャレも嫌悪の対象に。作詞のあべこうじは大分出身ではない。だから地元愛がなく、サポーターの愛するチーム名でふざけられたのだ! との声が上がった。
「トリニータの“トリ”が鳥でないのは、あべさんも承知。彼は
大分弁やトリニータについて、すごく勉強したうえで書いています。完成時にも膨大な量の資料を抱えてやってきて、歌詞一つ一つについて説明してくれました。もちろん、バカにする意図は一切なく、どうやったらノリ良く楽しく応援できるか真面目に考えた結果なんです」
「トリニータイソウ」を徹底して子ども向けに仕上げたのにはもう一つ理由がある。
「サッカーメディアって、サッカー経験者や“すでに知っている”人にしか向いていないと感じます。サポーターも未経験者を排除し、ワールドカップの時だけ盛り上がるファンをニワカと馬鹿にする傾向が強めです。だから、
ライト層が入ってこられない。既存客に喜ばれるカッコ良さより、マスに響くポップさが公式ソングには必要だと考えたんです」
クラブも鈴木氏の考えに賛同し、批判の声に対して公式サイトにてコメントを発表。「トリニータイソウ」は取り下げず、継続の意向を示した。また、鈴木氏も自身が運営するサイト「SerenadeTimes」にて
見解を発表するという異例の事態となった。
4月5日、大分トリニータの公式サイトにて、株式会社大分フットボールクラブ代表取締役・榎徹氏の名義でコメントが発表された
「YouTubeのコメント欄を書き込み不可にしたのも不評でしたね。逃げるなセリーナ! って。でも、PVに出てくれた人たち、特に子どもたちとその親御さんたちを思うと厳しかった。大切な我が子の出ている作品が罵られているなんて悲しいでしょう」
炎上商法、売名行為だと指摘する人も多い。
「正直、ここまで批判されるとは思っていませんでした。仮に
嫌われるの上等で炎上を狙ったとしても、メリットはないんです。名前を広めたところでステータスにも、マネタイズに繋がるわけでもないですから」
自分の払ったチケット代から幾らかでも「トリニータイソウ」に使われていると思うと納得いかない。そんなツイートも見受けられる。
「
制作費は私の会社がすべて負担。もちろんクラブにはロイヤリティを支払いますが、
現時点ではCDの売上でしか利益を生み出せません。炎上そのものがCD販売の広告戦略? この状態だとマイナスプロモーションですよ(苦笑)」
「ケツ」と「うんこ」でサポーターの反感を買い、キー局でも扱われるほど賛否両論分かれる公式ソングとして知られるようになった「トリニータイソウ」。プラスマイナスはさておき、確かに大分トリニータの知名度を上げる役割は果たしたと言えるかもしれない。
編集プロダクション勤務を経て、2002年にフリーランスとして独立。GETON!(学習研究社)、ストリートJACK(KK ベストセラーズ)、スマート(宝島社)、411、GOOUT、THE DAY(すべて三栄書房)など、ファッション誌を中心に活動する。また、紙媒体だけでなくOCEANSウェブやDiyer(s)をはじめとするWEBマガジンも担当。その他、ペットや美容、グルメ、スポーツ、カルチャーといった多ジャンルに携わり、メディア問わず寄稿している。
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