ニュース

東大の卒業式・入学式でスピーチする御仁の資格と品格/倉山満

― 連載「倉山満の言論ストロングスタイル」―

上野千鶴子名誉教授

今年の東京大学の入学式で祝辞を述べる、上野千鶴子名誉教授

1964年の東大卒業式でスピーチした大河内総長とは


 この前、護憲派に向かって思いっきり罵倒してしまった。「お前ら、改憲派くらい、頭が悪いな!」と。連中、何を言われているか理解していなかったのだから、相当に頭が悪いに違いない。

 私は、頭がパーの左翼・リベラルのことを「パヨク」と呼ぶ。同じく、頭の悪い右翼・保守のことを、「アホシュ」と呼ぶ。パヨクとアホシュ、丙丁つけがたい頭の悪さだ。

 さて、元祖「おま言う大賞」とも言うべき人物がいる。大河内一男(1905-1984年)、東京大学総長である。「おま言う」とは、「お前が言うな」の略である。

 大河内総長は、1964年の東大卒業式で「太った豚よりやせたソクラテスになれ」と講釈を垂れたとされる御仁である。これに対し、東大関係者は「(ジョン・スチュアート・ミルの著書からの)引用が正確でない」とか「総長スピーチの予定原稿には書いてあったけど、実は発言してない」とか、オタク的なトリビアを披露しているが、そんな細かい事実関係はどうでもいい。

 本質は、東大の総長(東大の学長のことだが、なぜか慣習的に自民党の派閥幹部か暴力団の親分の如く、この名称で呼ばれる)を務めた大河内なる人物がソクラテスに値するか、ブタにふさわしいかである。

戦争に異を唱えた東大教授、河合栄治郎


 時は、昭和14(1939)年のことだ。当時の日本は支那事変という愚かな戦いを続けていた。中国国民党の挑発と現地マフィア(その最大勢力が中国共産党)の暴虐に業を煮やした大日本帝国は、「暴支膺懲」を掲げ中国大陸全土に大軍を派遣した。「暴支膺懲」とは、「暴れん坊のチャイニーズを懲らしめる」という意味である。勇ましいが、これが戦争目的なのだから、それこそ中国人を皆殺しにしなければ終わるはずがない。

 案の定、中国大陸全土で全面戦争を展開し、などという立派なものではなく、壮大な鬼ごっこを繰り広げ、戦費調達の為の増税に次ぐ増税で、国民生活は瀕死の状況であった。

 それでも、健気な日本国民は耐えた。これは正しい戦いなのだ。立派な軍人さんたちが戦っているのだから、不平や不満を漏らしてはいけない、と。異論を唱える者は「非国民」として、社会から抹殺された。なかには、命を狙われた人もいる。

 その一人が、東大経済学部教授の河合栄治郎だった。河合は、左右の全体主義者の両方の間違いを指摘した。パヨクとアホシュの両方を敵に回して孤軍奮闘していたのだ。この戦いに意味があるのか? どうやったら終わるのか? きれいごとを言うけれども、戦いを推進している連中は、何も考えていないのではないか? それどころか、世界を敵に回して、日本を破滅させる気なのか?

 しかし、河合の正論は通らない。軍と政府は東大に圧力をかけてきた。時の総長は、戦艦大和の設計者として有名な平賀譲だった。平賀は河合が論敵と激しく争っていたのを「喧嘩両成敗」として処分するとの方針を示した。テキトーな理屈をつけているが、因縁をつけて河合をクビにしようとしたのだ。

次のページ 
大河内は恩師の河合と縁を切り保身に走った

1
2
3

嘘だらけの日独近現代史

世界大戦に二度も負けたのに、なぜドイツは立ち直れたのか?





おすすめ記事