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オレオレ詐欺犯に、息子の座を乗っ取られそうになった男子の話。そして僕――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第41話>

隣のゲス男子が語り始めた、不思議な話

 こういった喧騒の中で作業をしていると面白いことがある。様々な人間模様を垣間見ることがあるのだ。  それ絶対に騙されているよ、という儲け話に耳を傾ける大学生もいれば、FXの負けを取り返すために金を貸してくれみたいな申し出をしているゲスもいる。かと思えば、突如として明らかにいかがわしい店のものとしか思えない面接が始まり、「例えば僕くらい汚いおっさんでもちゃんと舐めたりできる?」という普通ではちょっと聞けない会話が始まったりするのだ。けっこうパンチが強い。  そういった意味では、いま隣の席で展開されているゲスをあまり極めていない感じの乙女が織りなす「わたし以外わたしじゃないのなんて当然じゃんね?」という会話はあまりパンチが強いものではなかった。けれども、その対面に座るけっこうゲスを極めていそうな男子の言葉で一気にパンチ力が増強されたのだ。 「そうでもない。自分以外が自分ではないのは当然とは思わない。なぜなら、俺以外が俺だったことがあるからだ」  なかなかハードパンチャーになってきた。彼以外が彼だった? ドッペルゲンガー? かなり期待が高まってくる。もちろん、原稿なんて1文字も進まない。エロ動画のダウンロードは進んでいた。それでも彼のエピソードに耳を傾けるしかないだろう。 「俺、ずっと実家に住んでたじゃん」  彼はそう言って少しだけ声を潜めて語りだした。  なんでも、彼は働くでもなく、学校に行くでもなく毎日スロットに行くだけだった日々があったそうだ。  そのスロットも特に真剣にやっているわけではなく、適当にやっていたので負けが込んでいった。そうなるとすぐに金がなくなるので、母親の財布から盗む日々が続いたそうだ。なかなかゲスを極めてやがる。  母親の財布にあまり現金が入っていないときは、父親のコレクションであるカメラを盗んで売り飛ばし、スロットに行っていたようだ。完全にゲスを極めてやがる。  そんなある日、事件が起こる。  ゲスの家にオレオレ詐欺の電話がかかって来たそうなのだ。時期的に、その手の詐欺が大流行していて様々な被害が出ていた時期だったらしい。  電話を取ったのは母親だった。息子は今日もスロットだ。家にはいない。 「もしもし、母さん、実は仕事でミスしちゃったんだ。そう、仕事で200万円の損失が出たんだ。すぐに穴埋めしないとクビになっちゃう。助けて!」  これにを受けてお母さん、焦るでもなく、動転するでもなく、ちょっと怒ったそうだ。 「うちのバカ息子は仕事なんかしていない。それどころか毎日私の財布からお金を抜いてスロットだ。父親のカメラまで盗んでいる。それでジャグラー? という台ばかり打っている」  そんな怒りが湧いてきたそうだ。ごもっともだ。ただ、それを口に出すことはなかった。  これは最近話題のオレオレ詐欺だ、そう思ったらしい。この時点で、もうお金を騙し取られることはありえないが、お母さんは思ったそうだ。できるだけ引っ張ってもっと沢山の情報を手に入れよう、そうして警察に情報提供しよう、と。 「大丈夫かい? 本当に200万円必要なのかい? 上司の人に相談してなんとかならないのかい?」  お母さんの迫真の演技が始まった。
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そして、母親のまさかの反応に……
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pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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