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年200億円赤字のAbemaTVを、なぜ藤田晋社長は続けるのか/馬渕磨理子

サイバーエージェントの広告事業はそんなにスゴいのか?

 ここまでで、サイバーエージェントの売上の中心は広告事業であり、その事業には意外とコストがかかっていることがわかりました。それでも、サイバーエージェントは広告事業だけで、2018年通期、売上高約2280億円、利益約213億円を生み出しています。原価はそれなりにかかっているものの、同社はインターネット広告代理店という“本業”でしっかりと利益を生み出しているのです。  現在、インターネット広告市場は拡大を続けており、2018年度にはTV広告に迫る規模まで拡大しています(サイバーエージェント資料より)。サイバーエージェントは、1998年の創業以来、インターネット広告の市場拡大を見込んで、この分野に注力し企業を成長させてきました。そして、令和の時代にサイバーエージェントが見越している市場が、メディア事業だったのです。だから初期投資として赤字は当然。これまでの“稼ぎ”をAbemaTVに投入しているのです。

Abemaタワーを建てても、社食ができても怖くない

 そればかりか、財務諸表(略して“BS”=Balance Sheet)を分析すると、同社の意外な事実が分かります。  BSについて、前回のメルカリ分析に引き続き、改めて復習しておきましょう。  左側に置くのが「資産」。これはビジネスの戦場でどのような軍備を持っているのかを示すものです。現金や商品在庫、工場、ソフトウェアなどがその代表例です。  右側は「負債」。これは借金や未払金などが含まれます。右下に置かれるのが「純資産」。株主から調達した資産や利益の蓄積が記載されます。さらに、資産と負債の中を2つに分類し、BSを5つにわけて見るのが基本です。  この5つを押さえると、その企業が倒産しないかどうかの“安全性”を見極めることができるだけでなく、PLだけでは見えてこない事実を発見できます。

サイバーエージェント=“借金とかしない実家暮らしの堅実な彼氏”説

 では、サイバーエージェントのBSはどうでしょうか。  流動資産の割合が高く、特にその中でも現金預金の比重が非常に高いことがわかります。驚くべきは、負債の借入金です。短期借入金は約9億円、長期借入金は9000万円と借入金の額が非常に少ない点が特徴です。さらに、株主から調達した純資産は1092億円あることから、体力がかなりあることがわかります。 AbemaTV つまり、サイバーエージェントを男女の恋愛関係、夫婦関係に例えるとこういうことでしょうか。  一口で言えば、“堅実な彼氏(夫)”。  実家暮らし(=借入金の少なさ)で貯めた今までの貯金(=広告事業の利益)を使って、新しく一軒家(=AbemaTV)を奥さんのために建てようとしている“堅実な夫”像が浮かび上がってきます。

売上高4000億円を超えるまでに成長した次のステージ

 すでに述べたように、サイバーエージェントが見ている先は、AbemaTVに代表される動画市場です。これは、単にAbemaTVのユーザー数を増やしてtoC向けの市場を拡大するだけの狙いではありません。本当の狙いは、広告事業にあると私は考えます。  2018年の動画広告市場は1800億円ですが、2024年には、なんと4,950億円規模に拡大する見込みです。(サイバーエージェントオンラインビデオ総研より)  この市場を取りにいくためには、今はメディア事業に先行投資せざるを得ません。つまり、企業として当然の選択なのです。
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「自分たちで、やる。」社風も強み
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