更新日:2023年03月28日 09:52
お金

年200億円赤字のAbemaTVを、なぜ藤田晋社長は続けるのか/馬渕磨理子

「あの企業の意外なミライ」を株価と業績から読み解く。滋賀県出身、上京2年目、犬より猫派、好きな言葉は「論より証拠」のフィスコ企業リサーチレポーター・馬渕磨理子です。  私はこれまで、上場銘柄のアナリストとしてさまざまな企業の業績予測、市況予測を行ってきました。また、自身で株式投資を5年以上に渡って行い、市場に向き合ってきました。  本連載では、そんなリサーチャーである私馬渕の視点からみなさまに「あの企業の意外な情報」をお届けます。

“赤字のAbemaTV”が堂々と続いている理由

 今回取り上げるのは、ブログやニュースサイトを提供するサービス「Ameba」でおなじみのサイバーエージェント<4751>の財務分析です。  同社が現在展開している事業は、インターネット広告、メディア、そしてゲームの3つ。特に、みなさんがここ最近で同社の存在感を感じるのは、インターネットTV局のAbemaTVではないでしょうか。  元SMAPメンバー3人による「72時間ホンネテレビ」(2017年11月)、「亀田興毅に勝ったら1000万円」(2017年5月)、「蒼井そら出産当日アジア同時生中継!」(2019年5月)など話題の番組を次々手がけています。  そんなAbemaTVですが、開局以来、同社のメディア事業は赤字が続いています。  テレビではその事実について、藤田晋社長は度々指摘されてきました。2019年4月の開局3年を迎えた特別番組では、現在のAbemaTVの頑張り度合いを「80点」と自己評価したのに対し、2ちゃんねる創設者のひろゆき氏から「赤字の状態で80点ということは、ただの趣味なのかなと思ってしまう」と厳しい指摘を受けています。

「AbemaTIMES」より

 それでも、藤田社長はこのメディア事業を続けるという強い意思を示しています。なぜ、AbemaTVは赤字でも、堂々と続けることができるのでしょうか。答えを先に言えば、それは藤田社長の強い“意思”だけではなく、同社に確固たる“基盤”があるがゆえのものでした。その本質を、サイバーエージェントの財務諸表に注目して3分ほどで説明していきましょう。

わずか6%しか占めないメディア事業

 そもそも、サイバーエージェントは何で儲けているのでしょうか。  AbemaTV? Amebaブログ? Amebaニュース?  どれも不正解です。  その答えを知る方法として、同社の損益計算書(略して“PL”= profit and loss statement)を見てみましょう。  PLは、簡単に言えば企業に「出てくるお金」と「入ってくるお金」を示したグラフのこと。サイバーエージェントの事業別の売上高を分解してみます。【メディア事業】、【広告事業】、【ゲーム事業】の3つあるメイン事業のなかで、広告事業が54%の売上高を占め、次にゲーム事業が35%を占めています。  知名度の高いAbemaTVのメディア事業は、会社全体の売上高の比率ではわずか6%に過ぎないのです。実際、2018年度のメディア事業の営業損益は177億円赤字(うちAbemaTVは208億円赤字)ですが、広告事業で213億円、ゲーム事業で253億円の営業利益を積み上げ、全体として301億円の営業利益に着地しています。  つまり、サイバーエージェントは、AbemaTVで赤字を出しても、会社全体として黒字に納まるほどの“稼ぐ力”を持っているのです。

イメージとまったく違う!サイバーエージェントの事業別売上高割合

 このグラフを見て、私はあることに気づきました。それは、サイバーエージェントは「IT企業っぽくない」ということ。  連休中はハワイ旅行にでかけ、社内表彰式をFacebookでシェアするキラキラOLが働く、IT企業というイメージを抱かれがちな同社ですが、PL構造を見ると、IT・ゲーム企業のPLというより、広告代理店のPLと似た割合になっています。  実際に、サイバーエージェントと同じIT企業であるDeNA<2432>、ミクシィ<2121>、また広告代理店であるオプトHD<2389>、博報堂DYホールディングス<2433>を比べてみると……。  下のグラフを見てください。

図表2:まるで博報堂!サイバーエージェントのPL構造

 サイバーエージェントはIT企業であるにもかかわらず、非常に売上原価が高いことが分かります。これは、同じIT企業であるミクシィの売上原価の低さに比べて対称的。  一方、オプトHDや博報堂に代表される広告代理店は売上原価が高く、営業利益が圧縮されています。そして、サイバーエージェントはこれらの広告代理店と似たPL構造になっています。
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広告事業はそんなにスゴいのか?
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経済アナリスト/一般社団法人 日本金融経済研究所・代表理事。(株)フィスコのシニアアナリストとして日本株の個別銘柄を各メディアで執筆。また、ベンチャー企業の(株)日本クラウドキャピタルでベンチャー業界のアナリスト業務を担う。著書『5万円からでも始められる 黒字転換2倍株で勝つ投資術』Twitter@marikomabuchi

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