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修羅の国スナックはお客に優しい世界じゃないんだぞ――酔いどれスナック「出禁の基準」

 ヨウコソココヘ♪の雰囲気を醸し出すお店であっても招かれざる客は存在する。悪意の申し子こと筆者が、ヘドロのように積もった怨念を吐き出すかのごとく出禁にしたい客の基準を吐露しまくる今宵。登場人物の呼称が、お客→そいつ→メンヘラおやじ→おめぇ→そのオッサンと目まぐるしく変わっていく…そんな回です。

第六夜 出禁の基準

 出禁の基準ですって……。  たまにはスナックのおばあちゃんぽいことでも書いてみようかと思ってこんなタイトルを付けてみたものの、出禁の基準なんて店によって違うのでぶっちゃけあまりわからない。  そもそも第1~3夜の連載をお読みになった人はご存知の通り、わたしの働いているスナックで出禁になる人なんて滅多にいないし、界隈でおそらく一番下品で緩い店だし、みんな心の中で「あの店は最終ゴミ処理場」って呼んでるからまったく参考にならないと思う。  同じビルに入っている隣のスナックはだいぶ厳しいみたいで、そこを出禁になった人がちょいちょいうちに流れてくる。たいてい女の子に触ったとかしつこく連絡したとか、そんなに大した理由じゃない。だいたい店のママの虫の居所によって変わるんじゃなかろうか。理不尽だと思うかもしれないが、飲み屋ではママやマスターが絶対王者なので郷に入っては郷に従ってもらうしかない。  うちは女性客が触られるのも連絡取るのもすべて自己責任で、いい歳した女なんだからそんなことぐらい騒ぐな、嫌なら自分で回避しろ、ただし店の利益は減らすなという人非人のマスターによって経営されているし、そもそも酔ったマスターの客へのセクハラが一番激しい店なので隣のスナックを出禁になった程度のお客はかわいいもん。  明け方に女性のお客に向かって「パンツ見せろ」とか言ってはしゃいでいるマスターの頭をハリセンで叩く役割のわたしも、やらかしまくっていた破廉恥なお客時代と比べたらだいぶ大人しくなり、一部の人からは「つまらなくなった」なんて屈辱的な表現をされるぐらいには品行方正で、シャツのボタンも二つまでしか開けず、見せてもせいぜい伸びきったダサいブラ紐ぐらいの牙を抜かれた真面目なお店の人になってしまった。  出禁について個人的な希望を言えば、こちらの労力と会計金額が釣り合わなすぎる奴はみんな出禁になってほしくて、つまり氷大好きおじさん磯山(第二夜参照)を真っ先に出禁にしたいのだが、今一つ決め手がないので早く隣に座る客の頭をデンモクで殴るとか何かしらの事件を起こしてほしいなぁと思っているけど、彼は以前常連の田中の頭をマイクでぶん殴っても出禁にならなかったらしいので、なかなか遠い道のりである。  労力と金額が釣り合わないといえば先日、約七時間飲んで歌って楽しんだお客に三千七百円という激安会計を出して「高い」と文句を付けられた時には、正直そいつのキープしている鏡月(3300円)でぶん殴って「だったらもう来んな」と言ってやりたい衝動に駆られた。  一体どんな優しい世界に生まれ育ったら七時間飲んでカラオケを歌いまくって、なんなら手を握ってデュエットなんぞもしてもらって、生産性のないつまらない話を聞いてもらって、おまけに大鼾かいて眠りこけても追い出さずに寝かせておいてもらって三千七百円が高いと思えるのか。慈善事業じゃねぇんだぞ。そもそもうちは修羅の国のスナックで、日高屋とか磯丸水産で飲んでるわけじゃねぇんだぞ。冷静に考えればわかるはずなのだが、酔っぱらいはいつだって冷静さを欠いているのでこんなことはまぁよくある話だ。心の中で出禁にしておきます。  もっと腹が立つのは、オール持ち込みで場所だけ借りに来て長居するようなお客で、ごくたまに深夜帯に現れるそのメンヘラのオッサンは、アサヒスーパードライの500ml缶を六本くらいとイカ燻製やナッツ等のつまみをすべて持ってやってくる。  この時点でアウトな感じが半端ないのだけど、そこは最終ゴミ処理場、一応受け入れはするのだが、席だけ貸して大人しく飲んでいるのかと言えばまったく逆で、ビールを入れるグラスはワイングラスが良いとか、灰皿は黒いのが良いとか、氷は解けにくいロックアイスが良いとか(グラスに注いだビールに氷を一個ずつ入れて飲む)、マイクのボリュームが小さいとか音響が悪いからカラオケの機械ごと取り替えろとか、氷大好きおじさんも顔負けの謎のこだわりを持って文句と要求を突き付けてくる。マイクのボリュームじゃなくておめぇの声が小せぇだけだ。
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スナックは未開の部族の集落
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