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おっさん×ハロウィン、この世で最も生産性のない組み合わせーーpatoの「おっさんは二度死ぬ」<第63話>

「ゴミの仮装をする」と言い出したおっさん

「おれ、ハロウィンで仮装をしようと思う」  職場近くの定食屋でたまたま一緒になった半田さんは中華丼にむしゃぶりつきながらそう言った。半田さんは同じ職場の人でけっこう仕事をさぼり気味な人だ。まだ11時10分だというに一足早く昼食に出て堂々と中華丼を貪る歴戦の猛者だ。それを定食屋で見ている僕も同じ穴の狢だ。 「え、何の仮装をするんですか?」  これでミイラ男とかドラキュラって言われたらまあ無難な反応が可能だけど、サクッと「Z/X Code reunion」の仮装をしようと思う、と最新のアニメのことを言われたらどうしようと思った。ただ半田さんの返答はそれらの予想を大きく覆すものだった。 「ゴミの仮装をしようと思う」 「ご、ゴミ……ですか?」  仮装しなくてもすでにゴミじゃないですか、僕も半田さんもゴミじゃないですか。11時に昼めし食ってるんですよ。という言葉をグッと飲み込んだ。 「で、そのゴミの仮装で渋谷に繰り出すんですか? ゴミを散らかすなっていうアンチテーゼみたいな感じで」  ハロウィン後の渋谷は、ゴミが溢れて大変だったみたいなニュースを見た気がする。それに対する抗議の行動かと思ったが、半田さんは首を横に振った。どうやら違うらしい。渋谷にはいかないらしい。僕の頭の中には、体中にゴミ袋をたくさんつけてゴミの仮装をし、居間に棒立ちする半田さんの姿が浮かんだ。ちょっと面白かった。 「ゴミの仮装をして近所のおばさんの家に行く」  半田さんはそう言った。それは一歩間違えたら、いや一歩間違えなくとも通報とかされるやつじゃないだろうか。聞きたくなかったな、そういう話は。  それでも話を聞いてみるとこういった事情があるらしい。  半田さんの住む地域は、朝9時までに所定のゴミ捨て場にゴミを捨てなければならないらしい。それを1分でも超えた場合は捨ててはならない、という鉄の掟があるそうだ。で、本当に遅れていないかゴミ捨て場の前に仁王のようにして立っているおばさんがいるそうだ。  半田さんは独り暮らしなので、出勤前にゴミを捨てていく、だから9時より遅れたことはなかったのだけど、薄々勘付いていた。ゴミ捨て場にはゴミ収集車が来てゴミをかっさらっていくのだけど、その地区はその収集車の順番が遅いようで、午後1時くらいになってやっと回ってくる感じだった。  だから、みんなが9時を守り、仁王も睨みを利かせているが、本来はその9時を守ることにあまり意味はないんじゃないかということだ。究極的には収集車が来るまでに出せば良いので、午後1時くらいでも大丈夫なのだ。  僕なんかもそう思うしそっちの方が効率的だと思うが、実態は違うようだ。
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仁王との攻防戦の末に……
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pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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