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リベンジをかけた混浴で、この世の残酷さを知る――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第60話>

 昭和は過ぎ、平成も終わり、時代はもう令和。かつて権勢を誇った“おっさん”は、もういない。かといって、エアポートで自撮りを投稿したり、ちょっと気持ちを込めて長いLINEを送ったり、港区ではしゃぐことも許されない。おっさんであること自体が、逃れられない咎なのか。おっさんは一体、何回死ぬべきなのか——伝説のテキストサイト管理人patoが、その狂気の筆致と異端の文才で綴る連載、スタート! patoの「おっさんは二度死ぬ」【第60話】刺青は罪なヤツ  おっさんたちは混浴を目指した。  阿蘇の大地は雄大さと繊細さを兼ね備えていた。ふと気が付くと周囲全てを山に囲まれており、きっと今まさにカルデラの中にいるのだろうと実感した。そのスケールはちょっと想像していたものより大きなもので、ただただ感嘆の言葉しか出なかった。  そんな風景を背に、茶色のレンタカーが疾走する。車内にはおっさんが4人、パンパンに詰まっている。おっさんだらけだ。きっと世界でも有数のおっさん密度であろう。よくわからない臭いが車内に充満していた。  おっさんどもは日々の忙しさ、暑さの中で溶けそうになっていた。そんな生活の中で、温泉でも行こうっていつも話していた。落ち着いたら仲間で行こうなんて話していた。幸いなことに、奇跡的に日程が合い、時代が追いかけてくることもなく、こうして熊本の地に集結することができたのだ。 「台風、大丈夫かなあ」  おっさんの一人が口を開いた。台風が接近しつつあった。まだまだ遠い海上にあるとはいえ、その影響はあるようで強い風がレンタカーを左右に揺らしていた。 「また別府みたいな状態になるのは嫌だぜ」 「もう別府のことは言うな!」  張り詰めた空気が車内を覆った。  ちょうど一年前のことだ。同じメンバーで混浴を目指し、大分県の別府温泉に向かったことがあった。(第12話)しかし、別府を目指していたのはおっさん4人だけではなかった。超大型で強い勢力の台風もまた、別府の地を目指していた。  台風直撃の暴風雨の中、なんとか営業していた混浴露天風呂に辿り着いたが、大量の雨によって温泉が薄まり、ただの池と化していた。そこに女性が来ることを待ちながら延々と浸かることとなった。女性どころか温泉のスタッフも、他の男すらも寄り付かないなか、ただただ延々と冷たい池に浸かっていた。 「確かに台風は近づいているけど直撃じゃない。見ろ、空だって青空じゃないか」  そう、この阿蘇の青空は台風の存在なんて微塵も感じさせないほどに晴れ渡っていた。 「これは混浴、いけますなあ」 「いけますなあ」 「混浴に入ってきたエロい女にいきなりチンポ掴まれたらどうしよう!」  こうして、バカでありながらどこか真剣な会話を交わしながら、いくつかの観光名所を巡ったのち、茶色のレンタカーは山深い阿蘇の温泉地へと吸い込まれていった。 「この入湯手形を買っていただければ3つまで温泉に入れます。お得ですよ」  温泉宿の仲居さんがそう説明した。この温泉地には旅館の温泉以外にも外湯と言われる温泉や、他の宿の温泉など、有料で好き放題に入りに行けるらしい。その数はかなり多く、ちょっと数え忘れてしまったが20くらいはありそうな感じだった。  入湯手形と呼ばれる木製の札を購入すればかなりリーズナブルになるとのことだった。 「どの温泉にするかだな。なにせ3つまでだからな」 「この4つのうちどれかだな」  既に議論は4つの温泉のうちどれに入るか、というとこまで絞られていた。なにせ、20個くらいある温泉のうち、4つくらいが混浴露天風呂だったのだ。はなからそれ以外の温泉は眼中になかった。議論のスタートが混浴からなのだ。
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もはや我々には混浴以外の選択肢はなかった
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pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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