更新日:2023年04月20日 12:37
ライフ

おっさん×ハロウィン、この世で最も生産性のない組み合わせーーpatoの「おっさんは二度死ぬ」<第63話>

仁王との攻防戦の末に……

 ある時、祝日とゴミの収集日が重なった。その時、半田さんは初めて9時の禁を破り、11時くらいに持っていったそうだ。休みなのに早起きしてまで9時を守る意義を見出せなかったようだ。それでもぜんぜん収集車には間に合う時間だ。  しかしながら、ゴミ捨て場に行くと、仁王がいた。仁王が立っていた。9時1分に捨てに来た若妻すらも泣いて帰らせたのに、11時とは何事か、狂ってんのか、そんなトーンだったらしい。 「いいじゃないですか、収集車が来るまでに捨てれば」 半田さんは食い下がった。効率的に考えてくれよと懇願した。 「それを認めると収拾がつかなくなり、ゴミ捨て場がめちゃくちゃになる」  仁王のその反論は納得がいくものだった。確かに、収集車に間に合えばいいという問題でもないような気がする。ゴミ捨て場の管理という側面から見ると、全員が決まりを守ることは大切だ。例外を認めるとなし崩し的になって収拾がつかなくなる。そんな事象はこの世に山ほどある。  半田さんもその仁王の主張は納得がいくものだと言っていた。けれども、納得がいかなかったとも言っていた。何を言ってるんだか分からないと思うが、確かにそう言った。 「今日だけは捨てさせてください。次からは気を付けます。めっちゃ臭いゴミ入ってるんです」  半田さんはそう主張した。まあその気持ちも分かる。めっちゃ臭いゴミ、やばいもんね。 「ダメだ、それを認めるとゴミ捨て場がめちゃめちゃになる。ハロウィンみたいになる」  仁王のその主張も分かる。例外を認めるとなし崩しになる。突如ハロウィンを出してきた意味は分からないが、あのハロウィン後みたいなゴミだらけの状態になってしまう。 「ハロウィンみたいにはならないですよ。そんなすぐには」  まあ、怪しいけど半田さんのその主張も分かる。 「いいや、ハロウィンになる」  ちょっと頑なすぎると思うけど、まあ、そう言う仁王の主張も分かる。 「ハロウィンを何だと思ってるんですか」  確かに、仁王はハロウィンとゴミを直接的に結びつけすぎだ。そう言いたくなるのも分かる。 「分からない」  仁王くらいの年代の人になると、ハロウィンの実態はよく分からない。その気持ちも分かる。だからこんなにも頑ななのかもしれない。 「じゃあハロウィンでゴミの仮装をしてあなたの家に行きますよ、本当のハロウィンを見せにね」  なんでそうなるのか分からない。狂ってんのか。 「おうよ、上等よ、そうしたらお菓子あげるわ」  なぜ仁王も受けて立つのか分からない。  結局、売り言葉に買い言葉、ゴミを捨てることはできなかったが、ハロウィンの約束を取り付けたらしい。あまりハロウィンを分かっていない二人のやり取りの結果、それは奇しくも、子供たちが仮装をして各家庭を回り、お菓子を貰うという、本来のハロウィンに近い形になっていた。  おっさんにとって、現代のハロウィンはちょっと羨ましい。その実態はよく分かってないけど、お姉さんたちがちょっとエッチな仮装をして街に繰り出して盛り上がることだけは分かる。羨ましい。経験したことがないものなので、いつか加わりたいと思っている。けれども、やはりちょっと仮装に手を出す勇気はない。それがおっさんというものだ。  ただ、今年のハロウィンはもう一つの要素が加わった。本当に半田さんがゴミの仮装をして仁王の家に行き、お菓子を貰うのか。これはもう乱痴気騒ぎよりも楽しみなハロウィン要素だ。今年のハロウィンは見逃せないのだ。  で、ハロウィンって何日だっけ? 天皇賞の日? ロゴ・イラスト/マミヤ狂四郎(@mamiyak46
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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