更新日:2020年05月01日 18:27
ライフ

コロナ禍の「おっさんLINE」に殺意を覚える。有事で人間性が露わに…

「コロナに負けるな」の空虚さ

 わたしは、思考することを停止しなければ「暇」という言葉は生まれないと思っているし、思考していればやることなどもいくらでも見つけられると思っている。飲み屋で酒を飲むという、いわゆる思考を停止させる娯楽しか持っていないと、それを失ったとたんに放り出された子供のように地面で大の字になって駄々をこねるだけになってしまうのだ。  一つ面白いのが、そういう「暇」を唱える人に限って「コロナに負けるな」とか「悪いのは全部コロナ」みたいな具体性のないキャッチコピーに違和感を抱かず口にするということだ。  原発問題の時の「頑張ろうふくしま」も一体何をどんな方向で頑張るのかという感じで気持ち悪かったけど、今回の「コロナに負けるな」も劣らず薄気味悪い。ウイルス感染に勝つも負けるも無くて、闘いだというならば闘うべきものは各々によって違う。この状況によって加速する貧困とか綻びのある社会保障制度とか、色んなものが「コロナ」で覆い隠されている。  暇をアピールする思考停止人間たちは、悪意はないのだろうが、こういう安易なキャッチコピーを乱用しがちだ。文書の末尾に付ける「敬具」ぐらいの勢いで「コロナに負けるな!」とか付け加える。「お店休みだから暇でしょ? 遊ぼうよ! コロナに負けるな(握りこぶしの絵文字)」とか。  なんだそれ。外出自粛が促されて休業になり暇だろうから外出に誘うという意味のわからない内容になっている。そして内容に何一つそぐわないキャッチコピー。そんなことも、たぶん気付いていないんだと思う。コロナというよりも、外というか他者にしか拠り所を見付けられない空虚な自分と闘ってくださいとしか言いようがない。  最近だとさすがに大人しくしているけど、少し前まではこの「コロナに負けるな」を変な方向に解釈した者たちが「営業してる飲み屋を盛り上げよう」みたいなおかしな企画を立てて集団で飲みに出歩いたりしていた。ひたすら首を傾げるしかなかったけど、本人たちは自分は善行を積んでいるつもりだったのだろう。簡単に言うと、思考しないから思考から行動までの組み立てが成立しないんだろうなって思った。  緊急事態宣言が無事に解除されるかどうかわからないけど、5月6日を過ぎたら徐々に営業を再開する店も増えるだろう。その日が待ち遠しくもあるけど、同時に待ってましたとばかりに駆け込んでくるキャッチコピー乱用人間が、「結局コロナってたいしたことなかったよね」とか何も考えていない言葉を口にするであろうことを想像すると、若干ため息が出る。  こういう想いも、いざ再開すればあれよあれよという間に酒によって流されてしまうのだろうけど。<イラスト・粒アンコ>
(おおたにゆきな)福島県出身。第三回『幽』怪談実話コンテストにて優秀賞入選。実話怪談を中心にライターとして活動。お酒と夜の街を愛するスナック勤務。時々怖い話を語ったりもする。ツイッターアカウントは @yukina_otani
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