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世界の真ん中で「セーラームーン」を絶叫した男、都会の怖さを知る

第十九夜 飲み屋でぐらい下ネタ話そうぜ!Part3

 年末から前回にかけて世の中の雰囲気や担当編集の圧力に負けて、やれ忘年会のカラオケだバレンタインだコロナウイルスだと個人的にいまいちテンションの上がらない主題を無理矢理ねじ曲げて書いていると、久しぶりにふざけた記事を書きたくなるのが人の常。  世の中はマスク不足だし、近所の薬局にはいまだにトイレットペーパーが売ってないし、飲食店も旅館も相次ぐ閉店の危機だけど、そういうのは自分が書かんでも頭のキレる人がたくさん書くだろうし、わたしに書けるのはスナックでのおかしな日常だけなので、とりあえず今回は平常運転に戻ろうと思う。だってこの連載のタイトル、スナック珍怪記だし。  二十時に出勤すると、手前のカウンターには、ちょっと珍しい人影があった。 「おぅユキちゃん、おはようさん」  入口でコートや鞄を掛けているわたしのほうに椅子をくるりと向けて、朗らかな声を上げたのはマッちゃんだった。 「おはよ~。久しぶり~」 「テンション低っ!」  飲んでないと相変わらずやなぁ、とマッちゃんはからからと笑った。  マッちゃんは二週にいっぺんぐらいの頻度で来店するお客さんだ。  年のころは四十半ば。黒いハンチング帽にメタル系のトップスやジャックダニエルのジャケットに黒いパンツ、だいたい全身黒づくめの怪しいサブカル業界人風だが、いかつい見た目に反してやわらかい京都弁でするりと懐に入り込む人当たりの良い性格で、懐かしのサントリーオールド、通称「だるま」を鬼のように飲む。声を使う仕事をしていただけに、渋い昭和歌謡を歌うよく通る声が魅力的だ。カウンターに入るなり彼からだるまのソーダ割を一杯ご馳走になり、連休で酒を抜いてエネルギー切れを起こしていた身体にガソリンが注ぎ込まれて生き返った心地になった。 「ユキちゃん、『スケアリーストーリーズ』観た?」  早速、最近の映画の話題になった。新型コロナ騒動以来、少し映画館へ行くのを控えていたわたしはソーダ割を一気に飲み干しながら首を横に振る。 「はよ見いや。何してたん週末」 「部屋に籠って『崖』観てた」 「アンタまたふっるいやつを……」  マッちゃんは映画オタクと言っても過言じゃないぐらい映画に詳しい。メジャーなものからドマイナーなものまで、仕事帰りに映画館をハシゴして何でも観てる。タイトルを告げればだいたいの作品は通じるので、わたしみたいにモノクロとか、あまり話題作でないものばかり好んで観るタイプの人間にとっては嬉しい存在だ。変な映画を観たら彼に話したくなるし、変な映画を観たい時は彼に聞けばとびきり変なのを教えてくれる。  その日も、『岬の兄妹』とか『アントラム』とか『デンデラ』とか、わりとマイナーな映画の話で盛り上がっていたのだが、奥のカウンターでは風俗王・ミスター川越がSM風俗での思い出をマスターに熱く語っていた。ホテルの窓に押し付けられて「あなたの恥ずかしい姿が東上線から丸見えよ」と言われたとか、ソファに縛り付けられてパンツのシミをスケッチされたとかいつものやつだ。ちょいちょい耳に飛び込んでくる面白ワードにこちらの我々もつい噴き出してしまう。それに触発されてか、マッちゃんが突然ポツリと言った。 「そういや俺、昔、変な風俗行ったことあんねん……」
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セーラームーン、いっぱい居ますよ
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