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『鬼滅の刃』の主要キャラクターはなぜ死ぬのか? 読者の心を揺さぶる仕組みとは

残された者は遺志を継ぐ

 物語の本質は対立です。相反するものがぶつかり合う時に飛び散る火花に読者は魅了されます。その対立は「敵と味方」「集団と個人」「伝統と革新」など様々な形がありますが、そのなかでも最も人を魅了するのは「生と死」です。  継承はまさにこの「生と死」の対立を描いています。ただ、この対立は「どっちが勝った」という描き方ではありません。対立には「両者に共通点が見出されることで、発展的に解消される」という描き方もあります。  継承の場合は、死にゆく者と残された者が同じ想いを抱くことで、生と死の間に横たわる深い溝にかけ橋が築かれます。鬼滅の刃は、この「生と死の対立と、その解消」が度々描かれるからこそ、その度に読者は惹きつけられ、読むのが止まらなくなるのです。  ただ、継承はいつでも適切に行われるわけではありません。親しい人物の死は大きな悲しみが伴います。そして、その大きな悲しみゆえに、受け継ぐはずだった想いを心の奥に封じ込め、忘却することがあります。無一郎と義勇の場合がこれに当てはまります。  無一郎は兄が鬼に殺された時に、自分も大怪我を負いました。また鬼に襲われる前に、父と母も亡くしています。心にも体にも深い傷を負った無一郎は、その頃の記憶を失っていました。  義勇は自分の姉と友人の錆兎に命を救われています。しかし、彼は「姉ではなく自分が死ねばよかった」「錆兎ではなく自分が死ねばよかった」と考えていました。  二人をこの状態から救い出したのは炭治郎です。炭治郎は無一郎に対して、「人のためにすることは巡り巡って自分のためになる」という言葉を投げかけます。この言葉は無一郎の父親と同じものであり、これがきっかけになって無一郎は過去のことを思い出します。  また義勇に対しては、「錆兎から託されたものを繋いでいかないんですか?」と問いかけます。この問いかけがきっかけになって、義勇は錆兎から「姉が命をかけて繋いでくれた命をお前も繋いでいくんだ」と激励されたことを思い出します。  無一郎も義勇も、自分が思い出したことを「大切なこと」と表現しています。人間は誰もが大切なことを経験し、その大切なことを見失います。そして、その見失った大切なことを取り戻すと、それが大きなカタルシスになります。物語の読者は感情移入することで、その大切なことを取り戻したカタルシスを追体験しているのです。そして、その大切なこととは、「死にゆく者が想いを託し、残された者が想いを受け継ぐ」という継承です。  心は人と人の結びつきによってできています。たとえば「もっと勇気を出すぞ」「もっと自信を持つぞ」と考えるだけでは、勇気や自信は生まれません。なぜならそうした心情には、「あの時、あの人に、ああ言われたから。だから自分はこうする」という過程があるからです。  誰かの心に新しい心情が生まれる過程を目の当たりにすると、人は心を強く揺さぶられます。そして、その心を揺さぶられた感覚が、物語の場合には「面白い」という感想になります。物語の楽しみ方に決まりはありませんが、人と人との結びつきに注目するとより感情移入できるようになります。  死にゆく者が想いを託し、残されたものが想いを受け継ぐ。この継承に着目して読むと、鬼滅の刃が今まで以上に面白く感じられるはずです。ぜひ試してみてください。 佐々木
コーチャー。自己啓発とビジネスを結びつける階層性コーチングを提唱。カイロプラクティック治療院のオーナー、中古車販売店の専務、障害者スポーツ「ボッチャ」の事務局長、心臓外科の部長など、さまざまな業種にクライアントを持つ。現在はコーチング業の傍ら、オンラインサロンを運営中。ブログ「星を辿る」。著書『人生を変えるマインドレコーディング』(扶桑社)が発売中

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