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稲盛和夫が「心」をテーマにした経営を始めたきっかけとは?

いまの仕事楽しい?……ビジネスだけで成功しても不満が残る。自己啓発を延々と学ぶだけでは現実が変わらない。自分も満足して他人にも喜ばれる仕事をつくる「魂が燃えるメモ」とは何か? そのヒントをつづる連載第184回 実業家 実業家の稲盛和夫はそれまで勤めていた会社を辞めて、京セラを創業した時に、「自分の技術を世に問うてみたい」と考えていました。それがあることがきっかけで、「従業員の物心両面の幸福を追求する」と考えるようになります。  そのきっかけになったのは、創業2年目に入社した11名の新入社員たちでした。彼らは入社して一年近く経った時期に、「毎年の昇給を約束してほしい」という要求書を稲盛に突きつけました。  これに驚いた稲盛は「去年できたばかりの会社で来年の話なんてできないし、ましてや約束なんてできない」と説明します。それに対して新入社員たちは、「約束できないなら辞めるしかない」と納得しません。この押し問答は三日三晩続きました。  この時の稲盛は、終戦後で苦労を強いられている親兄弟の面倒を見なければならない立場でした。その立場に加えて、採用したばかりの従業員の面倒まで見なくてはならないのかと悩み、「会社を作ったのは間違いだった」とまで考えつつも、覚悟を決めて彼らに次のように訴えます。 「約束はできないけれども、必ずお前たちのためになるようにするつもりだ。それを信じてみないか。いま辞めるという勇気があるなら、俺を信ずる勇気を持てないか。信じられないというのなら、だまされる勇気はないか。だます男かだまさない男か確かめて、そのときだまされたと思ったら俺を殺してもいい」(『新しい日本 新しい経営(PHP研究所)』より)  稲盛の訴えを聞いて、新入社員たちは要求を取り下げます。この経験を通して、稲盛の経営姿勢は「自分の技術を世に問う」から、「従業員の物心両面の幸福をする」に変わりました。その後、社会の一員として社会の発展に貢献すべきという考えも加えて、「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」を京セラの経営理念にしました。  創業時の考えを改めるのは一つの決断ですが、そうした決断には必ず人物の影響があります。この時の稲盛の心情にあったのは「切り替え」です。マインドレコーディングでは、お金や効率や技術といった「何か」について考えるのが理屈、家族や友人や同僚といった「誰か」について考えるのが信念と区別しています。人物の影響を自覚すると、自分の考えを理屈から信念に切り替えて、決断できるようになります。  稲盛は昇給を要求してきた新入社員たちの影響を受けて、信念や経営理念といった「人の心」を経営の土台に置くようになっています。稲盛和夫といえば心をベースにした経営論が有名ですが、それは彼自身の経験から抽出されたエッセンスに他なりません。  仕事を続けていれば、誰でも「こうすべきだ」という理屈を持つようになります。しかし、もしその理屈通りに事が運ばないのなら、それは理屈が間違っているからではなく、目の前の人や周囲の人について考える信念が足りないのかもしれません。  何かについて考える理屈と、誰かについて考える信念が組み合わさると、それまでになかった発想が生まれて、それが解決策になることがよくあります。トラブルを抱えた時は、誰でも「自分の言い分が正しい」と考えたいものですが、その時にぜひ一度「相手にも一理あるかも」と考えて、自分から歩み寄ろうとしてみてください。それが突破口になるかもしれません。 佐々木
コーチャー。自己啓発とビジネスを結びつける階層性コーチングを提唱。カイロプラクティック治療院のオーナー、中古車販売店の専務、障害者スポーツ「ボッチャ」の事務局長、心臓外科の部長など、さまざまな業種にクライアントを持つ。現在はコーチング業の傍ら、オンラインサロンを運営中。ブログ「星を辿る」。著書『人生を変えるマインドレコーディング』(扶桑社)が発売中

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